The Muffs/No Holiday
★★★★★
ウェルメイドなポップ・ソングが18曲揃った極上のギター・ロック・アルバム! マフスの7thアルバムである本作は、キム・シャタックがALS(筋萎縮性側索硬化症)によって10月2日に死亡した為、結果的に彼女の遺作となった。
本作の制作過程を詳細に取材した記事やロイ・マクドナルドの回想録よると、過去作のアウトテイクも数曲あるらしいが(マフスの公式サイトで2003年からフリー・ダウンロードできた「Feel It」が「That's For Me」と改題されて収録されている)、基本的にはキムが新作に向けて録り貯めていたデモ音源にバンドとして音を重ねて仕上げられているとのこと。とはいえ、過去作のデラックス・エディションなどに収録されているキムの宅録音源を聴けば分かる通り、この人はもともと自分でドラムやベースの音も加えてアレンジもほぼ確定させた(ピート・タウンゼントばりの)カッチリとしたデモを作る人であり、ALSによって体の自由が利かない中でも彼女が最後までしっかりとしたディレクションを行なったことで、18曲全てがきちんと「マフスの楽曲」として成立しているのであった。
弾き語り音源に音を重ねた楽曲はビートルズの「Free As A Bird」「Real Love」やダニエル・ジョンストン、ガイデッド・バイ・ヴォイシズのような味わいもある(「Insane」はGBVの「I Am A Scientist」っぽいすよね)。以前からキムはGBV好きを公言していたが、本作におけるローファイとハイファイの中間のミッドファイ的なサウンドで、初めてそうした要素を強く出すことができたといえるではないだろうか(ちなみにメンバーのロニーも本作はGBVの『Mag Earwhig!』に近い内容と語っている)。
メンバー達も本作がバンドとしての最終作になることを意識してレコーディングを進めていたのは間違いない。「Pollyanna」ではマフスのオリジナル・メンバーであるメラニーのキーボードが大フィーチャーされており、ここでマフスとパンドラスが最後の邂逅を果たす。ロイは幾つかの楽曲で彼のキャリアの中でも突出した神懸かり的プレイを披露しており、マフスのバンドとしての結束力の高さを感じさせてくれる。さらにアルバムのクライマックスではキムとロイの共作(「The Kids Have Gone Away」)でザ・フーの「The Kids Are Alright」へのオマージュが! マフスの音楽の核になっているのは何かを彼等は最後に改めて提示してくれたのだった。
さて、前作『Whoop Dee Doo』の最終曲「Forever」が 「I can't help but saying it that we're gonna be forever(私達は永遠だって言わずにはいられない)」という歌詞で締め括られたのを覚えているだろうか? そのことに呼応するかのように、本作の最終曲「Sky」でも、最後に歌われるのは「Forever」という言葉だ。「The sky I see it seems to go forever(この空は、永遠に続いていくように思えるの)」。マフスよ永遠なれ!