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マフスが2年ぶりにアルバムを出すかのような態度でシレっと10年ぶりのアルバムを届けてきやがったぜ! 10年かけてこんなもんか?という他愛のなさがとにかく素晴らしい。肩肘張らずに聴ける気負いのなさ&人懐っこさ。そもそも本作の収録曲は2011年の時点で全て著作権登録済み/ライヴでお披露目済みだったのだから、マフスの本質は微塵もブレていないというべきか仕事遅すぎというべきか。『Happy Birthday To Me』でエンジニアを、『Alert Today Alive Tomorrow』でエンジニア兼共同プロデューサーを務めたスティーヴ・ホルロイドがベーシック・トラックの録音に協力していることもあって、アルバム全体の基本的なサウンドはこの2作に近いといえるかも。まあ、さすがに10年もかけただけに、バングルスの「Walk Like An Egyptian」風な「Take A Take A Me」や、逆回転ヴォーカルに驚かされる「Because You're Sad」など、マフスにしては新機軸なナンバーもある。この辺りは先日バングルスと共演してビートルズの「Rain」をカヴァーしたことに繋がっているわけですな。
60年代ロック/ポップスの最良の部分を継承したキムのソングライティングの切れ味も衰え知らず。クリスタルズの「Then He Kissed Me」をルーシー・ラヴズ・シュローダーのカヴァー経由で消化したかのような「I Get It」(ちなみに本作収録曲「Weird Boy Next Door」のPVの監督はルーシー・ラヴズ・シュローダーのサラ・レイドルだ)はマイケル・シェリーも「まるでビートルズのようだ!」と絶賛。また、レイ・デイヴィスのバック・バンドとして2012年に来日も果たしているジ・88のキース・スレットダールがゲスト参加しており、キムのキンクス好きなところがマフス史上もっとも具体的な形で作品に反映されているのが嬉しい。そして、前作のラスト・ナンバーが「The Story Of Me」、本作のラスト・ナンバーが(まるでキンクスの「Misfits」のような)「Forever」であることからも分かるように、マフスの決意表明はアルバムの最後で密やかに行われているのだった。そう、マフスの物語はまだまだ続くんだよ。全12曲37分。っていうか次のアルバムはもっと早く出せよな!