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パンドラスの元メンバーであるキムとメラニーを中心として1991年1月に結成されたマフスの記念すべき1stアルバムが、発売から22年を経て10曲のボーナス・トラックを含むリマスター盤として再発された。発売元はアレックス・チルトンやゲーム・セオリーの一連のリイシューでお馴染みのオムニヴォア・レコーディングス。今回も「パワー・ポップの救世主」の通称に相応しい、愛情溢れる丁寧な仕事っぷりが素晴らしい。リマスターの仕上がりは、たとえば「Luck Guy」のキーボードがくっきりはっきりと聴こえるなど、音の粒を際立たせつつも、マフスの最大の魅力であるドカドカうるさいロックンロール・バンドっぷりがさらに強調されていて非常に良好。オリジナル版をこれまで愛聴してきた人も、このリマスターによってかなりアルバムの印象が変わるんじゃないかな(というか、おいらは変わった)。
ボーナス・トラックは未発表曲4曲を含む当時の宅録デモ音源が貴重。『Hamburger』および『Kaboodle』に収録されている『Blonder And Blonder』期の宅録デモと違ってドラムマシンが使用されていないので、おそらくキムは93〜94年頃にドラムマシンを入手したということなのだろう。ライナーノーツはロニーとキムが書き下ろしており、「Saying Goodbye」の歌詞はロニー・スペクターがフィル・スペクターに別れを告げるという「設定」だったとか、「All For Nothing」の元ネタはローリング・ストーンズの「She Smiled Sweetly」で、レコーディング最終日の午前6時に歌入れを行って完成したとか、「Lucky Guy」のPVを手掛けたのは映画『Desperate Teenage Lovedolls』の監督であるデイヴ・マーキーだったとか、貴重な新事実がザックザク。また、ブックレットに掲載されている当時のレコーディング・シートから、名曲「End It All」は本作のレコーディング・セッションで一度はレコーディングされていたことも判明した(だから『Blonder And Blonder』のリマスター盤ではそれを収録してけれ!)。
ちなみに、このアルバムはグリーン・デイのメンバーのお気に入りでもあって、メジャー・レーベルからの誘いを断り続けてきた彼等がリプリーズと契約して『Dookie』を制作することになったのは、本作のプロデューサーだったロブ・キャヴァロと一緒に仕事ができるから、という条件が非常に大きかったとのこと。もともとは「メタル野郎」だったというロブ・キャヴァロは、マフスとグリーン・デイとの仕事を通して90年代半ば以降のオーセンティックなロックンロール・サウンドの雛形を作り上げることになるのはご存知の通り。その過程において、マフスとグリーン・デイのメンバーがリヴァーブ嫌いだったということは彼のサウンド作りに非常に大きな影響を及ぼしていると思われる。