映画『あんにょん由美香』(監督:松江哲明)観賞。★★★★★。
ミュージック・マガジンの最新号を読んでいたら、本作のサウンドトラックのレビューでこんなことが書いてあった。
アダルト映画への出演が中心だったものの、実は澄んだ心を持っていた彼女の横顔を浮き彫りにしている。
ひでえ言い草だなあ。じゃあアダルト映画に関わっている人間は心が汚れてるっていうのかよ。そもそも、「アダルト映画」ってのも変な言い方で、林由美香について語るんだったら「AV/ピンク映画への出演が中心」と書くべきだろう。こんな短い文でも書き手のお里が知れるってもんだぜ。
と、岡村詩野の駄文に文句をつけたくなるぐらいに、この映画は傑作なのだ。池島ゆたかの『超いんらん やればやるほどいい気持ち』じゃないが、林由美香は近年の日本映画界で最も「映画」を体現し続けた女優なわけで、そんな彼女の死に突き動かされるようにして生まれた本作には映画愛が溢れまくっている。これを観れば、林由美香だけじゃなくて、この映画に登場する全ての人が、映画を愛する全ての人が、「澄んだ心」をどこかに持っているというのが分かるはずだ。こんな文章を書く岡村詩野の心が一番汚れてるっつーの!
おいらが観に行った日のトークショーで松江監督も言ってたけど、林由美香って女優は『由美香』とか『たまもの』のような「名作」だけでは全てを知ることができないわけで(その一例が本作で取り上げられている『東京の人妻・純子』なわけで)、これがきっかけとなって彼女の隠れた傑作/佳作がもっと上映/ソフト化されるようになると嬉しいな。個人的には渡邊元嗣の作品でコメディ・リリーフとして使われている時がたまらなく好きだったんだけど、そこらへんが彼女の死後の特集上映なんかで取り上げられないのが残念でさ。あと、様々な人々のファンタジーの対象となった彼女の少女/乙女チックな部分(まあそれは本作の中で中野貴雄が言っているように、外見だけだったわけだけど)と、(ピンク大賞の授賞式などで見せてくれた)サバサバした実際の性格が最もバランス良く表現されている荒木太郎の「キャラバン野郎」シリーズなんかにも改めて注目してほしいな、と。