MC Lars/This Gigantic Robot Kills
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ウィータスとの共演ナンバー「Change The World (Black Precedent)」でお馴染みのMC・ラーズが、2006年の『The Graduate』以来となるオリジナル・アルバムを発表。
ラーズ氏には『恋におちたブコウスキー』という著書があり、本作でも(エドガー・アラン・ポーの『大鴉』を下敷きにした「The Raven」、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』を要約した「Ahab」と続いてきた文学ポップ・ソング・シリーズの第3弾として)シェイクスピアの『ハムレット』を下敷きにした「Hey There Ophelia」なんて曲を収録しているぐらいの文学青年(スタンフォード大卒!)なんだが、相変わらず高踏的でスノビッシュなところを一切感じさせずに、むしろ前作以上にボンクラで軽薄なポップ・ソング集として仕上げているのが素晴らしい。
本作はダニエル・ジョンストンに匹敵するアメリカン・ロック・シーンの鬼才だったウェズリー・ウィリスの遺志を継いで完成された作品であり、つまりは超アンダーグラウンドな立ち位置から発信されているにも関わらず、そんなアルバムでピッチフォークの熱心な読者や『ドニー・ダーコ』を徹底的にコケにして(「Hipster Girl」)、シンプル・プランやアル・ヤンコビック等と共演してみせる、「小さい世界でまとまってんじゃねえよ」とでも言いたげな独立独歩の姿勢が貫かれているのも痛快極まりない。ちなみにウィータスも当然のように参加しており、「True Player For Real」ではMC・ラーズ×アル・ヤンコビック×ウィータスという夢のような三つ巴の共演が実現しているのだった。
その他にもナーフ・ハーダーのパリー・グリップとMR. BIGのポール・ギルバート(!)が参加した超ポップな「Guitar Hero Hero (Beating Guitar Hero Does Not Make You Slash)」、フガジの「Waiting Room」のリフを引用した「No Logo」、スキー・ローの「I Wish」(懐!)を発展させた「White Kids Aren't Hyphy」、アルバムのラストを飾るアトム&ヒズ・パッケージのカヴァー「(Lord It's Hard To Be Happy When You're Not Using) The Metric System」などなど、硬軟を織り交ぜた聴きどころ多数。全14曲46分。COMA-CHIの『RED NAKED』と並んで、個人的に強く「2009年」を感じた1枚。大傑作。
本作はボウリング・フォー・スープのジャレット・リディックとライナス・オブ・ハリウッドが設立したクラッピー・レコーズから発売されているんだけど、ライナス・オブ・ハリウッドって実はセッション・ミュージシャンとしてポール・ギルバートと何度も仕事をしているんだよね。「Guitar Hero Hero」にポールが参加しているのはその縁からに違いなくて、こういうピッチフォークでもクッキーシーンでもロッキンオンでもミュージックマガジンでも伝えようとしないインディー・ミュージック・シーンの真実の姿が反映されているというだけでも本作には価値があると主張したい。
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これ以前にも自主制作盤などが存在するものの、MC・ラーズの実質的な1stオリジナル・アルバムは本作と考えて問題ないと思う。発売当時のおいら内での評価は★★★★程度だったんだが、今回改めて聴き直してみたら、いやいや、これは文句なしに★★★★★の傑作じゃないっすか。それどころか、時代を象徴するアンセム的なナンバーの多さからして、ポップ・ミュージック史的に重要なのは『This Gigantic Robot Kills』よりも本作の方なのかもしれない、と思わせてしまうだけの輝きがあった。この時点で彼のスタイルは完全に確立されていたのであるなあ。この場を借りて自分の不明を恥じておきたい。
アンセム系の楽曲で筆頭に挙げておきたいのが「iGeneration」だ。この曲ってフーの「MyGeneration」をきちんと踏まえた歌詞になっているのが偉いよな。ポップ・ソング版『この本を盗め』である「Download This Song」もそうなんだけど、MC・ラーズって60年代〜70年代の人達がやろうとして挫折したことを、もっと建設的な形で推し進めているのが素晴らしいと思う。
『This Gigantic Robot Kills』を気に入った人は本作も必聴のこと。全14曲41分。