映画『エリザベスタウン』でのキルステン・ダンストのキャラクター設定は明らかに男の勝手な妄想の産物(「あんな親父臭い音楽マニアな女子なんていねえよ!」という)なわけだが、この世の中には実際にズーイー・デシャネルのような真性の音楽オタクもいるのだから、一概に妄想をバカにする事はできないのである。
ズーイー氏が公開したiTunesのプレイリストを見てみると、リンダ・ロンシュタットの「Different Drum」に、エヴァリー・ブラザーズに、キンクス、ハリー・ニルソン、ファントム・プラネット、ニーナ・シモン、さらにはラズベリーズが好きって、お前はおいらか!って話ですよ(しかも同じ1980年生まれだし)。
というわけでラズベリーズだ。いや、おいらも今年はラズベリーズを聴く事が多かったので、彼女がプレイリストに入れてたのは凄く嬉しかったのよ。それというのも、新たなリマスターが施されて音質が格段に向上したベスト盤『Greatest』が今年の5月に発売されたから。
ラズベリーズの魅力を3つに大別すると、ポール・マッカートニー直系の甘酸っぱいメロディ・ラインと、ザ・フー直系のガッツ溢れるアグレッシヴな演奏、そして甘さ一辺倒にならないようにバッチリとシャウトを決めてみせるエリック・カルメンの熱いボーカルという事になるだろう。彼等の偉大さは、ビートルズ/ザ・フーからの影響を、初めて「パスティーシュ」という形できちんと対象化してみせたところにある (「Ecstacy」でのザ・フー「Pure And Easy」のリフの導入や、「I Don't Know What I Want」での「無法の世界」っぷりはその最たるもの)。彼等がパワー・ポップ・バンドの元祖と呼ばれる所以はそこなのだ。たとえばプッシュ・キングスが参照にしていたのは、実はポール・マッカートニー/ビートルズなんかではなくて、このラズベリーズなんじゃないかと考えている。ブルース・スプリングスティーンもラズベリーズの大ファンとして有名だけど、彼の名曲「The Promise」のピアノ・リフは、明らかにラズベリーズの「Starting Over」のリフをモチーフにしてますね。