★★★★★
いやー、シー・アンド・ヒムのデビュー・アルバム『Volume One』、本当に素晴らしいねえ。個人的には自分の27年間の音楽生活のハイライトの一つに挙げたい、至福の「感応」体験だったよ。こんなにもビートリーなアルバムは、それこそレジーナ・スペクターの『Begin To Hope』以来なんじゃないだろうか。
「ラモーンズってビートルズだよね」「キャロルってビートルズだよね」というような観点で『Volume One』の収録曲を見ていくと、「This Is Not A Test」のコード進行はピーズの「鉄道6号」+「実験4号」だし、「Change Is Hard」はマイク・ネスミスの「Different Drum」(のストーン・ポニーズ、つまりリンダ・ロンシュタットが歌っているヴァージョン)だし、「I Thought I Saw Your Face Today」はギルバート・オサリヴァンもかくやという「霧のロンドン」な哀感漂うピアノ・ポップだし、「I Was Made For You」のビートは「涙の乗車券」でメロディはリトル・エヴァの「Keep Your Hands Off My Baby」だし(しかもギター・サウンドは完全にポール・マッカートニーの「Young Boy」だ)、「Got Me」は『ロデオの恋人』なカントリー・ロック。もちろん、おいらはこうしたところまで含めて「ビートリー」と考えているのだぞ。そして、こういう俯瞰的な視点を持ったアルバムを作れてしまうのがいかにも1980年生まれのズーイー・デシャネルらしいっつうか。
ちなみに「ビートリー」というのは、『Tug Of War』発表時にポール・マッカートニーがさかんに口にしていた「ビートルズ風」という意味の造語。ビートルズではどうしてもジョンの方が「言葉の人」という印象が強いけれど、ポール・マッカートニーの言葉のセンスもなかなかのものだと思う。「Ebony And Ivory」とか、「Venus And Mars」とか、「Morse Moose And The Grey Goose」とか。さすがにビートルズ時代から「チャック・ベリーの歌詞は凄い」とさかんに言っていただけはある。
「Why Do You Let Me Stay Here?」(MP3)
"Why Do You Let Me Stay Here?"