特集上映:サム・フリークス Vol.15
特集上映イベント「サム・フリークス」の第15回! 今回は映画史から黙殺されたフェミニスト西部劇の傑作『サウザンド・ピーシズ・オブ・ゴールド』と、ニール・ジョーダンの最高傑作の一つ『ブッチャー・ボーイ』を2本立てで上映いたします。
どちらもこれを逃すとなかなか劇場では観ることができないであろう貴重な作品で、しかも2本とも日本初上映ですので、この機会にぜひー。今回も有料入場者1名につき250円が虐待を受けたり貧困下にある子供達への学習支援&自立支援として役立てられます!
12月26日(日)には同会場でこのイベントの第16弾が、3月21日(月・祝)にはイベントの第17弾が開催されます! こちらもぜひ!
概要:
1)日時:2021年10月24日(日)
2)会場:ユーロライブ(渋谷)
タイムテーブル
12:50~ 当日券販売開始
13:00~ 開場
13:15~『サウザンド・ピーシズ・オブ・ゴールド』上映(日本初上映)
15:02~ 休憩
15:15~『ブッチャー・ボーイ』上映(日本初上映/17:05上映終了予定)
3)当日券料金:2本立て1500円(入れ替えなし・整理番号制)
※当日券は当日の12時50分より会場受付にて販売いたします。
※前売り券は特別価格1374(悲惨な死)円でPeatixにて販売中です。
本イベントはすべての子供達が社会から孤立することなく暮らしていけるようになることを目的とした学習支援や自立支援の為に、有料入場者1名につき250円を「認定NPO法人 3keys」へ寄付いたします。後日、当ブログにおいて寄付の実施をご報告いたします。
お金に困っている方は、ご相談いただければ当イベントに無料でご招待いたしますのでお気軽にご連絡ください。
また、未成年の方は当日会場にて500円返金します!性善説の自己申告制で、身分証チェックとかイチイチしないので、「無料にしてもらうのは気まずいけど、1374円払うのはキツい…」という方はこちらの制度をご利用していただければと思います。
お腹が空いている方は、事前にご連絡いただければ入場時におにぎりを差し上げます。食べられないおにぎりの具がある場合は、それも併記していただけると助かります。
こちらは当イベントの主催者に向けた救援物資を掲載したAmazonのほしい物リストになりますので、お金に余裕のある方はサポートしていただきたく思います。何卒よろしくお願い致します。
※前売り券について※
開場は13時00分です。整理券等への引き換えの必要はございませんので、劇場への入場時にPeatixのチケット画面、もしくは予め印刷したものを係員にご提示お願いします。入場順序に関しては、前売り券→当日券の整理番号順となります。場内は全席自由席となっております。入金後のキャンセルは承りかねますのでご了承ください。
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「サム・フリークス Vol.15」では、「サム・フリークス Vol.14」の上映作品『シルビーの帰郷』の原題『Housekeeping』を踏まえて、「家事/家を保つこと」が大きなモチーフとなっている作品を上映する。
『サウザンド・ピーシズ・オブ・ゴールド』は、ルタン・ラム・マッカンの同名小説を原作とする、中国からアメリカへと人身売買された女性の苦難の人生を描いたフェミニスト西部劇。ケリー・ライカートの『ミークス・カットオフ』よりも20年早かったといえる内容だが、監督のナンシー・ケリーは映画業界の性差別の犠牲となり、本作の存在はほぼ黙殺。その後は現在に至るまで長編劇映画を撮ることができないでいる。主演のロザリンド・チャオの相手役となるクリス・クーパーはジョン・セイルズの『メイトワン-1920』で鮮烈な映画デビューを飾った直後で、第2作目の長編映画出演となった本作でも類稀なる魅力を発散。「#StopAsianHate」の2021年に改めて評価されるべき作品だ。
『ブッチャー・ボーイ』は、後に『プルートで朝食を』でもタッグを組むことになる監督:ニール・ジョーダン/原作・脚本:パトリック・マッケイブの名コンビによる初コラボレーション作品。ここからも分かるように、実はニール・ジョーダンのキャリアにおいて非常に重要な作品。(またもや)アイルランドを舞台に、貧しい家庭の少年が精神のバランスを崩していく様を冷戦下の社会情勢とキリスト教社会の不条理に絡めながら描いたブラック・コメディで、内容的にも間違いなく彼の最高傑作の一つだ。聖母マリア役にシネイド・オコナー! ちなみに、映画の最後に出てくるスノードロップの花言葉は「希望」である。
岡俊彦(東京都品川区南品川3-5-2-503在住)
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「鳥には巣居、蜘蛛には蜘蛛の巣、人には友情」──ウィリアム・ブレイク
ケリー・ライカートは、『ミークス・カットオフ』で女性視点で読み直したミニマルな西部劇を試み、『First Cow』では上記の一節を引用し、1820年の米国で白人と中国系移民に育まれる穏やかな友情に焦点を当てた。その意味では、確かに19世紀の中国で貧しい父親から年季奉公で米国に売られた若い女性の苦難と異人種間のロマンスの実話に基づいたナンシー・ケリー『サウザンド・ピーシズ・オブ・ゴールド』は、1990年の時点で早くもその両方を志向していた映画であると言える。西部劇が前景化させてきた荒野での銃撃戦ではなく、彼女たちは、その背後で女性たちが食事の準備や洗濯、掃除、あるいは編み物に費やす場面に注意を払う点で共通する。特に『サウザンド・ピーシズ・オブ・ゴールド』では、隷属状態に置かれる女性を主役とすることで、西部開拓時代の搾取的な性別役割分担/性差別、そして人種差別や外国人嫌悪を明らかにし、カウボーイの家父長的な神話ではなく、女性の視点から日常の生活の問題として捉えているのである。過酷な現実を映し出しながらも、ナンシー・ケリーはヒロインを被害者ではなく、娼婦になることを拒み(「No whore!」)、さらに白人男性のカメリアコンプレックス的な思い上がりも是正するような信念を貫く自立した女性として提示してみせている。
初めて何も知らずに『ブッチャー・ボーイ』を見たときは、鋭利な題名とVHSのパッケージから勝手にホラーを予期したものだったが、この映画はショック描写に力を入れているわけでも主人公を悪魔の化身として登場させるのでもない。むしろ暗く悲惨な出来事を陽気に無邪気に描くからいささか驚いたことを覚えている。ニール・ジョーダンは、『狼の血族』で「赤ずきんちゃん」をモチーフに想像力豊かな思春期の少女の夢想をダーク・ファンタジーに仕立てたが、『ブッチャー・ボーイ』では過剰な思い込みに駆り立てられる少年にフォーカス。アルコール依存症の父と希死念慮に囚われた母のもとで育った主人公フランシーにとって、兄弟の契りを交わした唯一無二の親友だけが世界のすべてだったのかもしれない。一緒にいる間、田舎の小さな町はTVで見るカウボーイのように遊び回れるプレイグラウンドだっただろう。しかし、いつしか親友は世間と足並みを揃え、シャバい同級生と親しくし始めてしまう。それは裏切りにほかならない──これは、親友に強い執着を抱えた者の物語である。両者の友情のバランスが釣り合わなくなったとき、フランシーは、親友を奪った鼻持ちならない相手の母親を諸悪の根源とみなして被害妄想が暴走。独特なナレーションも渾然一体となって、原子爆弾への恐怖なども相俟った彼のパラノイアックな心理状態の感覚を深めていくような異色作。アリ・アスターは、「ニール・ジョーダンの不当に見過ごされた傑作であると同時に、『時計じかけのオレンジ』の精神的な兄弟」と本作を評している。
(映画ライター・常川拓也)
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『サウザンド・ピーシズ・オブ・ゴールド(原題:Thousand Pieces Of Gold)』(1990年、監督:ナンシー・ケリー)
Blu-ray上映(日本語字幕付き)
出演: ロザリンド・チャオ、クリス・クーパー、マイケル・ポール・チャン
『ブッチャー・ボーイ(原題:The Butcher Boy)』(1997年、監督:ニール・ジョーダン)
Blu-ray上映(日本語字幕付き)
1998年 ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞)受賞
出演: イーモン・オーウェンズ、スティーヴン・レイ、シネイド・オコナー
主催:岡俊彦
お問い合わせ先:岡俊彦(電話:080-4065-3412 メール:hardway@ba.mbn.or.jp)