もしも「00年代最高のアルバムは何?」と聞かれたら、おいらは迷う事なくモロコの『Statues』を挙げる。7月に彼等のベスト盤が発売されるので、2003年2月18日に書いた同作の感想文を再掲しておこう。未聴の方はこの機会にぜひチェックよろしく。
★★★★★★★★★★
いやはや、とんでもないもんを聴いちまったぜ。前作『Things To Make And Do』(傑作)から約3年ぶりとなる、モロコの4thアルバム。これがもう規格外の異常なポップ・ソングが全10曲57分詰まった怪物作品なのだった。あくまでも「ポップ・ソング」と書いたように、AMラジオ映えするメロディ&「うた」も、フロア対応もばっちりなのが恐ろしい。必聴。っていうかこれ聴かないで何聴くっつーんだよ!
2nd以降は生演奏を取り入れたサウンドが彼等の個性となっていたが、前作の長いツアーを経てバックバンドとのチームワークが強まったようで、今作では完全に生演奏中心に移行。さらに、ソングライティングありきの姿勢もより強固なものとなり、前作以上にジャンル分けが不能な、「モロコ」としか言い様のない独自の音楽性を確立。敢えて言うなら「グラム・ファンク・オーケストラ」という感じだろうか。なんつーか、グラム・ロックの未来形という印象。
そもそも、オープニング曲の「Familiar Feeling」からしておかしいんだよ。いきなり「A Day In The Life」(by ザ・ビートルズ)のコーダ部分のような怒涛のテンションで幕を開け、そのまま一気に6分30秒突っ走るという、ポップ・ソングという名の暴力。マーク・ブライドン&エディ・スティーヴンスの手による、E.L.O.も真っ青の分厚いストリングス・アレンジが壮絶に素晴らしい。それでいてリズムも疎かにせずに、ミーターズばりに細かくなっているのがまた嬉しいじゃないか。偉いぞ、ポール・スローリー!(@パーカッション)。 この曲以外にも「I Want You」、「Over And Over」あたりは弦フェチの勃起必至とみた。
また、このアルバムは、一人の人間が自分の孤独、絶望、そして諦念に真摯に向き合った作品としても評価されるべきだとも思う。ピート・タウンゼントの「ロックンロールは我々を苦悩から逃避させるものではない。悩んだまま踊らせるのだ。」という言葉に従えば、究極のロックンロール・アルバムと言えるかもしれない。例えば、一般的には新しい恋の喜びを歌ったと思われている「Familiar Feeling」も、少し聴けばすぐにそこに存在する底なしの闇に気づくはずだ。
ただ、描写があまりにも淡々としてるのに加え、ロイシン氏の中で完全に完結しているために、「?」と感じる人もいるかもしれない(おいらにとっては自分の事のようにしか思えなかったけど)。しかし、ウジウジと自己憐憫に浸ったり、押し付けがましい一般論にすり替えたり(「僕ら」とか言うの禁止!)する奴等と比べれば、どちらが誠実かは言うまでもないだろう。勿論、そのサウンドの強度に比べれば、しょせん瑣末事にすぎない話ではあるんだが。
個人的に特筆しておくべきは、これだけ以前とは次元の違う作品を完成させておきながらも、彼等の根本的な姿勢は微細も揺るいでおらず、変に「大人」になっていない点。そう、あのしょーもないユーモア・センスは未だに健在なのだ。っていうか2曲目「Come On」の歌い出しで「私、自由を謳歌してる(breaking free)の?/それともただ落ち込んでる(breaking down)だけ?/なんちって」ときた日には腰が砕けそうになったよ。せっかく「Familiar Feeling」で作った空気ブチ壊しだっつーの。ま、この破壊と構築の美学もモロコの魅力って事で。
ちなみに、結成以来、公私共にパートナーであったマーク&ロイシンもついに前作のツアー中に破局してしまったそうで、現在はあくまでも音楽上のパートナーという事らしい。って、アンタ達ますますユーリズミックス化が進んでますがな。