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メジャー・レーベルのEMIに移籍して発表されたロイシン・マーフィーの2ndソロ・アルバム。マシュー・ハーバートとの共作が話題となった前作『Ruby Blue』は、彼女らしいメロディ・センス&グルーヴがほとんど活かされていない平凡な作品だったが、今作では久々にポップ全開! モロコの『Statues』(超傑作!)がケイト・ブッシュにおける『The Dreaming』に相当するとしたら、その圧倒的なサウンド噛み砕いて提示してみせた本作はすなわち『Hounds Of Love』である。
先行シングルとして発表された「Let Me Know」や彼女のMySpaceで先行公開されていた「Cry Baby」などの印象から、てっきりダンス・オリエンテッドなアルバムになっているのかと思っていたら、非常にしっかりとした「うた」が息づいた作品に仕上がっているのも嬉しい。ここらへんはモロコ時代からきちんと一貫しているのが偉いなあ。
極太のシンセ・ベースが豪快に鳴り響く、地味だけどやたらとキャッチーなアルバム・タイトル曲「Overpowered」、ロイシンの息継ぎ音をパーカッションとして使用した(≒『Ruby Blue』での試行錯誤を消化した)「You Know Me Better」、マイケル・ジャクソンの「P.Y.T.(Pretty Young Thing)」にも通じるポップなファンク・ナンバー「Let Me Know」、00年代の「I Feel Love」とでも言うべきタフなダンス・トラック「Cry Baby」、ダウナーなポール・マッカートニーといった趣きの「Scarlet Ribbons」などなど、全曲シングル・カット可能なアルバムを目指して作られたというだけあって、聴き所は多数。その楽曲レベルの高さは、2007年を代表するサウンド・クリエイターであるカルヴィン・ハリスと00年代を代表する職人ソングライターとなったキャシー・デニスとの共作曲「Off And On」をわざわざボツにしていることからも窺い知れるというもの。
胡散臭くて、チャーミングで、キャッチーなエレクトリック・ディスコ・ファンク・アルバム。私見では、モロコの『Things To Make And Do』に匹敵する傑作。要するに最高ってことだ。これこそポップ・ミュージックの理想形。全13曲59分。必聴。
Roisin Murphy - Let Me Know