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ポール・ウェスターバーグの落ち穂拾いとして、昨年発表された最新ソロ・アルバムを購入してみた。
ニック・ホーンビィが『ソングブック』で書いているように、ポール・ウェスターバーグのアルバムはリプレイスメンツ時代から現在に至るまでどれも「どこかとりとめがない」作品ばかりで、決定的な傑作が一つも存在していない。というわけで本作もあんまり期待せずに聴き始めたのだが、これは「決定的」とは言えないまでも、彼の代表作の一つになるべき傑作ではないかと思った。
サウンドは『Stereo』の延長線上で、相変わらずのヘロヘロな弾き語りに簡素なリズム隊が付いただけの代物なんだが、とにかくソングライティングが冴えに冴えている。「買え買え買え/僕のシングル/僕のジングル」というしょーもない歌詞が素晴らしいオープニング曲「Jingle」からして、「良いメロディがあるならば歌詞なんてどうでもいい」「音楽こそが全て」という固い決意が感じられるではないか。
その他の収録曲の中では、D#→A#→G#→A#というシンプルなコード進行が印象的な「As Far As I Know」が出色。これはリプレイスメンツの「Can't Hardly Wait」に匹敵する(つまりは彼のキャリアを代表する)名曲だと本気で思うぞ。この曲の為だけに2000円を払っても惜しくはないと思うね。モニカ・ポッター主演の映画『I'm With Lucy』の予告編では、同曲のジュリアナ・ハットフィールド(!)によるカバー・バージョンが聴けるのでそちらも必見のこと。
最終曲「Folk Star」のアウトロでサンディ・デニーの「時の流れを誰が知る」を引用してみせるセンスも憎い。ポール・ウェスターバーグのシンガー・ソングライターとしての魅力が満載の全13曲52分。必聴。