Die Antwoord/House Of Zef
★★★★★
彼等が当初から公言してきたアルバム5枚計画の最終作にあたる本作は、デビュー・アルバム『$O$』と綺麗に円環構造を成す内容となっている。まず英語の割合が大幅に減ってアフリカーンス語が大幅に増え、『$O$』以来に地元・南アフリカのラッパーを大量にフィーチャリング・ゲストとして起用。つまり本作は彼等流のアフリカ回帰を打ち出した作品なのである(彼等は2015年からLAを拠点に置いて活動していたが、2019年に拠点を南アフリカに戻している。ちなみに「Da Godz Mus B Krazy」=「The Gods Must Be Crazy」という楽曲タイトルは、南アフリカ映画の代表作『ミラクル・ワールド/ブッシュマン』へのオマージュだ)。
前作『Mount Ninji and da Nice Time Kid』では意欲的にトラップを取り入れようともしていたと思うのだが、本作ではお得意のトライバルなデジタル・ビートが中心で、サウンド的にも『$O$』に近い。最終曲の「NO 1」では『$O$』のタイトル・トラックに乗せてラップを行い、「無名の人間に戻る」と繰り返す。当然このタイトルは「ナンバー1」と「No One」を掛けているわけで、南アフリカでナンバー1のラップ・グループになった彼等が再び無名の人間に戻るというスワン・ソングなのだろう。そして、その後の未来はニンジャとヨーランディの愛娘であるシックスティーンの「Be Happy」という言葉に託されているという誠に美しいフィナーレ(本作のジャケットの「顔」も彼女のもの)。彼等のコンセプトに多大な影響を与えた写真家ロジャー・バレンも参加して華を添えている。というわけで、2010年からずっと彼等を追い続けてタトゥーまで入れた人間としては「お疲れ様でした!」という感謝の気持ちで胸がいっぱいです。まあ、ラッパーの引退宣言とは「そういうもの」であるのは分かっているとはいえ、だ。