特集上映:サム・フリークス Vol.4
2018年秋からスタートした「はみ出し者映画」の特集上映イベント「サム・フリークス」の第4回! 今回はスウェーデンの名匠ルーカス・ムーディソンの傑作を2本立てで上映いたします。1本目はスウェーデンにやって来た不法移民達の逃避行を描き、『リリア 4-ever』へ向けての問題意識の萌芽となった脚本作品『ニュー・カントリー』、2本目はヒューマン・トラフィッキング/売春奴隷犯罪について描いた青春映画の永遠のマスターピース『リリア 4-ever』です。
この2本のチョイスは、日本だと『リリア 4-ever』について「胸糞映画」だとか「鬱映画」だとか「バッドエンド」といった紋切り型で他人事のようなクソつまらない感想を書き捨てる人があまりにも多い風潮になっていることに対するアンチテーゼです。 ルーカス・ムーディソンは世界の現状に対して怒っているし、自分の隣で苦しんでいる人がいるのに手を差し伸べない奴があまりにも多い状況に対して怒っているんです。『ニュー・カントリー』と『リリア 4-ever』を続けて観れば、そのことがきちんと分かるはず(『ニュー・カントリー』で描かれるモチーフの多くが『リリア 4-ever』で再び登場する点に注目すべし)。ケン・ローチの『ブレッド&ローズ』を上映した「サム・フリークス Vol.3」から地続きの内容にもなっております。
どちらもこの機会を逃すとなかなか劇場では観ることができないであろう貴重な作品で、今後のソフト化の予定もありませんので、この機会にぜひー。今回も有料入場者1名につき250円が虐待を受けたり貧困下にある子供達への学習支援&自立支援として役立てられます!
2019年7月6日(土)には同会場でイベントの第5弾が開催されます! 『リリア 4-ever』と『ニュー・カントリー』の内容を引き継いだ2作品が上映されますのでこちらもぜひ!
概要:
1)日時:2019年4月7日(日)
2)会場:ユーロライブ(渋谷)
タイムテーブル
12:40~ 当日券販売開始
12:50~ 開場
13:00~『ニュー・カントリー』上映
15:11~ 休憩
15:25~『リリア 4-ever』上映(17:09上映終了予定)
3)当日券料金:2本立て1500円(入れ替えなし・整理番号制)
※当日券は当日の12時40分より会場受付にて販売いたします。
※今回はいつもと違って日本初上映の作品がないので、前売り券はそのことをひた隠しにする為に特別価格1328(秘密や)円でPeatixにて販売中です。
本イベントはすべての子供達が社会から孤立することなく暮らしていけるようになることを目的とした学習支援や自立支援の為に、有料入場者1名につき250円を「認定NPO法人 3keys」へ寄付いたします(後日、当ブログにおいて寄付の実施をご報告いたします)。
お金に困っている方は、ご相談いただければ当イベントに無料でご招待いたしますのでお気軽にご連絡ください。また、お腹が空いている方は、事前にご連絡いただければ入場時におにぎりを差し上げます。食べられないおにぎりの具がある場合は、それも併記していただけると助かります。よろしくお願い致します。
※前売り券について※
開場は12時50分です。整理券等への引き換えの必要はございませんので、劇場への入場時にPeatixのチケット画面、もしくは予め印刷したものを係員にご提示お願いします。入場順序に関しては、前売り券→当日券の整理番号順となります。場内は全席自由席となっております。入金後のキャンセルは承りかねますのでご了承ください。
最も敬愛する映画監督にルーカス・ムーディソンの名を挙げるジェームズ・ガンは、彼の最高傑作『スーパー!』がムーディソンのデビュー作『ショー・ミー・ラヴ』──スウェーデン公開当時、イングマール・ベルイマンも「若き巨匠の最初の傑作」と絶賛した──から影響を受けた作品であることを公言している。彼は、『ショー・ミー・ラヴ』の「荒々しくて不鮮明」な映像の持つ雰囲気を自作に取り入れたかったのだという。
それは、ムーディソンの本質を捉えているかもしれない。彼は、社会に対して反抗的である一方で無防備で、タフでありながら傷つきやすく、シニカルだけど無邪気な子どもを主人公に据え、無闇な彼らの視点を通して世界を見ることを好む。それは、自分自身を守るための手段も能力も何も持っていない子どもが、世界で起こっている問題から大人よりも真っ先に傷を受ける存在だからだ。『リリア 4-ever』の親から放棄された少女リリアも『ニュー・カントリー』のソマリアからの不法移民の少年アリもここではないどこかへ逃げることを夢見るが、彼らの理想は、しばしば目の前の残忍な現実と衝突する。ムーディソンは、苦しみの真っ只中に生きるティーンエイジャーが希望にしがみつくそのカオスと闘争を描き出す。だからこそ、彼の映画は、「荒々しくて不鮮明」なのだ。
最も弱い者の見方でいまの世界を識別する/させることがムーディソンの本分ならば、『リリア 4-ever』では極めて特徴的な手法が盛り込まれている。彼は、リリアが終盤で体験するあまりに耐え難い苦痛と屈辱、そのひどい嫌悪を彼女が見たままに観客に認識させようとする。主観ショットを採用し、カメラを彼女の目の位置にそのまま置くことによって、まさに私たち自身の身に起こっていることのように感じさせるのである。
また、どちらの作品においても登場する大人たちは、卑劣な性的搾取者や性差別者、ないしは人種差別主義者ばかりである。例外は『ニュー・カントリー』でアリとともに強制送還から逃れるため逃避行に繰り出すイランからの不法移民マスードと落ち目のポルノ女優ルイーズのみであり、疎外されている人に手を差し伸べるそのような大人の有無が両作の違いでもあるだろう。それは、貧しい人々を搾取するレイプ社会に対する作り手からの政治的声明にほかならない。アンチ・オーソリティな反骨の映画作家ルーカス・ムーディソンは、映画を通して、「希望への闘い」を続けているのである。
「私たちは人生でも希望を探さなければなりません。私にとって、『リリア 4-ever』は世界のいくつかの地域を正確に描写する試みです。人生は素晴らしいものにできますが、それはまた地獄のようにすることもできます」「『リリア 4-ever』は責任と罪悪感を伴うものでした。私は世界で起こる問題に対して責任があると感じますし、私たち全員がそうでなくてはならないと思います。私はこの映画を作ることで、それに対する自分の責任を取ろうとしました。それが、私が『リリア 4-ever』をソフトなものにしたくなかった理由の一つでした」
(映画ライター・常川拓也)
『ニュー・カントリー(原題:Det Nya Landet) 』(2000年、監督:ガイル・ハンスティーン・ヨーゲンセン)
DVD上映(日本語字幕付き)
2001年 ベルリン国際映画祭 フォーラム・オブ・ニュー・シネマ部門 エキュメニカル審査員賞受賞
脚本:ルーカス・ムーディソン、ペーター・ビッロ
出演:マイク・アレマイユ、ミカリス・コウトソグイアナキス(『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 』)、リア・ボイセン
『リリア 4-ever(原題:Lilja 4-ever)』(2002年、監督:ルーカス・ムーディソン)
DVD上映(日本語字幕付き)
2003年 スウェーデン・アカデミー賞 最優秀作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、撮影賞受賞
出演:オクサナ・アキンシナ(『ボーン・スプレマシー』)、アルチオン・ボグチャルスキー
主催:岡俊彦
お問い合わせ先:岡俊彦(電話:080-4065-3412 メール:hardway@ba.mbn.or.jp)