今月に入って約40年越しで日本でも出版されたマリリン・ロビンソンの『ハウスキーピング』はアメリカ文学の名作とされる1冊であり、映画『シルビーの帰郷』の原作でもあります。
原題は『HOUSEKEEPING』つまり「家事」ということだが、普通に家事をこなせないシルビーのような女性が主人公なのだから、皮肉な題名ではある。周りの世間とか社会とかいったものと、同調できないヒロインを静かな表情で演じてるクリスティーンが、映画のラストで鉄橋を渡る前に、
「この先にはいろんな世界が広がってるのよ。それを見せてあげたいの」
とルースに語りかける場面は、初めてシルビーが、その心情を溢れさせてるように見え、その演技には胸を打たれた。
(中略)
女優クリスティーン・ラーチが、「世界とフィットできない」あるいは「世間からはじき出された」そうした人物像に強いこだわりを持って、キャリアを重ねてきてるのは明らかだろう。
それが『シルビーの帰郷』に出演したことで、役柄に目覚めたようなことなのか、もっと以前から彼女の中で、育まれてきたような、ある種の人生観なのか。
これがあったからこそクリスティーン・ラーチの映画人としての人生が決定付けられ、この意志を引き継ぐかのように(「アメリカ映画が描く『真摯な痛み』Vol.2」で上映した)彼女の監督作『マイ・ファースト・ミスター』が生まれることになるわけです。