★★★
ソロとしての前作『Yoni』が『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』で、ファン・サーヴィスに徹したワイルドハーツの再再再再再再再再結成アルバム『The WiLDHEARTS』が『Magical Mystery Tour』だったとするならば、50年代風のロッカバラードからゴー!チームの影響が反映されたダンス・ポップまで、やたらとバラエティに富んだ楽曲がこれでもかと詰め込まれた本作はさしずめホワイト・アルバムといったところか。
ただ、ビートルズにとってのホワイト・アルバムが「『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』で文化的になりすぎてしまった自分達のパブリック・イメージを破壊するために仕掛けた内部テロ」であったのに比べると、本作はそこまで切迫した作品にはなっていない。というか、「自演の内部テロ」という意味ならば、ジンジャーはワイルドハーツ時代にすでに『Endless Nameless』という傑作をモノにしているではないか! 本作はどちらかというと、近作で零れ落ちてしまっていた雑多なエッセンスを掬い上げた、落ち穂拾い的な意味合いが強い、シングルB面集(もしくは未発表曲集)のような趣き。
まあ、だから決して傑作と呼べるような内容ではないのだけれど、ジンジャーのように多作なアーティストの場合は、別に全てが傑作である必要はないと思っている(し、多作だからこそ、それを許せる)ので、たまにはこういうのがあっても全然OK。個人的には「Ninns Of Mourning」「House Of Moths」などで、ワイルドハーツ時代の隠れた名曲「Geordie in Wonderland」を彷彿とさせるアイリッシュ・トラッド調のメロディがたびたび登場しているのが興味深かったな。スティッフ・リトル・フィンガーズを敬愛するジンジャーのアイリッシュ的なルーツが垣間見えるようだ(そういえば、映画『シェルショック・ロック』では彼等の「Alternative Ulster」が1つのハイライトになっていたっけ)。そう考えるとジンジャーのルックスってアイリッシュ・パンク・バンドの代表格、レヴェラーズのマーク・チャドウィックに相通ずるものが…と妄想は広がるのだった。全21曲60分。