映画『ヘアスプレー』(監督:アダム・シャンクマン)観賞。★★★。
これは「ジョン・ウォーターズの『ヘアスプレー』のミュージカル映画版」ではない。あくまでも「ジョン・ウォーターズの『ヘアスプレー』を原作にしたブロードウェイ・ミュージカルの映画版」である(ややこしいな)。
なので当然ながらジョン・ウォーターズ的なバッド・テイストはほとんど感じられない健康的な仕上がりなんだが、そういったことに関係なく酷い作品だ。マーク・シャイマン作曲による60年代へのオマージュに満ちた歌の数々が良いから、とりあえず飽きはしないものの、ダンス・シーンのカット割りが細かすぎるせいでミュージカル映画としては最低の出来。美しいものを美しく撮らないのは罪だと思う。オリジナルも舞台版(おいらは今年夏に行われた来日公演を観た)も傑作なのに、「ミュージカル映画」になった途端にこの程度になってしまうだなんて、映画というメディアの難さをつくづく痛感させられたことだった。これはジャッキー・チェンが常々言っていることだけれど、映画では撮影や編集といった「見せ方」にまで拘らないと「動きの魅力」を伝えることはできないんだよね(それ故にジャッキー・チェンやジーン・ケリーは偉大な映画作家なのである)。
オリジナル版のキャストであるリッキー・レイクやジェリー・スティラー(ベン・スティラーの父ちゃん!)が顔を見せているのは嬉しかった。ジョン・ウォーターズ本人もジョン・ウォーターズ的なバッド・テイストを体現した役柄でカメオ出演。あと、どうでもいいけれど、スタッフロールを見ていたらメイクアップ・アーティストのところに「ロニー・スペクター」という、この映画に相応しすぎる名前があったので驚く。親がロネッツのファンなんだろうか。
ついでに書いておくと、本作に不満を抱いた人は『アメリカン・ピーチパイ』のアンディ・ヒックマンが撮った『Reefer Madness: The Movie Musical』を絶対に観るべきだ。こちらの方が本作よりも遥かにジョン・ウォーターズ的(=悪趣味)でミュージカル映画魂溢れる傑作だから。