Various Artists/Lowe Profile: A Tribute To Nick Lowe
★★★★
トリビュート・アルバムを聴いていると、おいらはどうしてもムカムカしてきてしまうんだが(「自分の持ち場で戦えよ!」と思う)、本作に限っては心の底から満足することができた。そもそも現時点ではニック・ロウのほとんどのオリジナル・アルバムが廃盤となってしまっているので、たとえカバーであっても世の中に流通させる意味があるのだから。
しかも、マフスのキム・シャタックが「You Make Me」のカバーで参加しているのだから、おいらが楽しめないはずがない。そう、2004年の来日公演でも披露していた、あの名カバーがついに音源化されたのだよ! さきほど「マフスのキム・シャタック」と書いた通り、本作には「マフス」ではなくてあくまでも「キム・シャタック」名義で参加しているのも特筆すべき点だ。パンドラズを含めて20年近いキャリアを重ねてきた彼女だが、ソロ名義での楽曲発表は本作が初めてなのである! これは別にマフス解散の危機!とかいうわけではなくて、あくまでもキム独りの弾き語りであり、オリジナル曲でもないので、バンド名義で発表するのは無理があったということなのだろう。それにしてもマフスのファンサイトをやっているというのに、こんな重要作を1年以上も見逃していたとは情けないぜ>自分。
ちなみに本作の製作総指揮を司ったのは「オレンジ・カウンティのニック・ロウ」というキャッチフレーズで知られるウォルター・クレヴェンジャー。キム・シャタックは彼が99年に発表した『Love Songs To Myself』に参加していたので、その縁で本作へ楽曲を提供することになったのだと思われる。その他にもデイヴ・アルヴィン(Xの「4th Of July」の作者ですな)、ドン・ディクソン、ニック・ロウのブリンズリー・シュウォーツ時代の盟友であるイアン・ゴム、そしてニック・ロウの養女であるティファニー・アナスタシア・ロウ(=ジョニー・キャッシュの孫!)など、彼の人脈を活かした豪華なB級アーティストが多数参加。で、まあニック・ロウはパブ・ロックの人だけあって、こうしたB級アーティストのいなたい演奏と楽曲が見事にマッチしているのであった。
それにしても本作を聴いてニック・ロウの偉大さに改めて気付かされたことだった。彼が書く(カントリー・ミュージックのエッセンスを豊富に含んだ)シンプルかつキャッチーなメロディは、エルヴィス・コステロほどアクが強くなく、かといってラモーンズほど単純でもない。そのサジ加減があまりにも絶妙で、非常にカバー映えするのだな。映画『恋のからさわぎ』でレターズ・トゥ・クレオによる「Cruel To Be Kind」のカバーが印象的だったのは、つまりそれ故だったのだ。
これで『ダニエル・ジョンストンの歌』みたいにオリジナル音源を併せてコンパイルしてくれれば間違いなく五つ星だったのになあ。いずれにしてもトリビュート・アルバムとしては傑作の部類に入る作品である。個人的にはベイ・シティ・ローラーズ賛歌の「Rollers Show」が収録されているのが嬉しかったな。全30曲95分。