★★★
ケイト・ブッシュの腐った出来損ないみたいな「ビョーク」とかいうオバサンがやたらと持て囃されているのが気に食わない。本家の12年振りとなるこの新作は、2枚組になるという事前情報を得ていた事もあり、そんな緩みきった世の中にドロップキックをかます内容になっているんじゃないかと期待しまくっていたんだが…。
いやあ、地味極まりないですなあ。「らしい」のはディスク2の後半に収録された「Nocturn」やタイトル曲ぐらいで、残りはポロポロとピアノを弾き語っているだけっつうか。物凄く綿密に練られている事は分かるし、水をも漏らさぬ緊張感バリバリのサウンド・プロダクションはさすがだとも思うんだが、それと音楽としての面白さは別物だろう。以前からこの人が孤高の存在であったのは間違いないが、ある種の「分かりやすいエキセントリックさ」によってポップ・ミュージック界との接点を保ち続けていたように思う。だが、長年の隠遁生活によってその接点すらも失ってしまったという印象だ。時の流れとはかくも残酷なものなのである。全16曲79分。
あと、今作にガッカリした人はモロコの『Statues』を聴くといいと思うよ。『The Dreaming』の狂気を、理詰めで00年代仕様にアップデートしてダンス・ビートに乗せた大傑作だから。たとえば「100%」なんかは、ケイト・ブッシュが今作の「Sunset」で表現している事の何十歩も先を行っている楽曲だと思うし。
2000年の『Things to Make and Do』でモロコ・ファンになったというリスナーたちは、『Statues』を聴いて驚くかもしれない。イビサ調の「Sing It Back」や「The Time is Now」の成功に乗ってひと儲けしようというような志の低さがまるで見られないからだ。ヴォーカリストのロェシーン・マーフィーが、いま風のケイト・ブッシュといった感じの声で歌うと、どんな曲でも世紀末後のゴスペルといいたくなるような様相を呈し始めるのだ。プロデューサーのマーク・ブライドンによる手の込んだアーティスティックなアレンジは、新たな美しい言語を聞く思いにさせられる。
(amazon.co.jpのエディターレビューより引用)