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来日公演の余韻で久しぶりにR.E.M.の過去の作品を聴いて感動を新たにした。本作は1983年に発表された彼等の1stアルバム。プロデュースはドン・ディクソンとミッチ・イースターの手によるもの。おいらにとっては当時13歳だった1994年に初めて聴いて、完全に人生を変えられてしまった一枚だ。
改めて聴いて特に感動したのはその音の良さである。20年以上も昔の音源なのに全く古びておらず、驚異的な瑞々しさを保っている。冒頭曲「Radio Free Eourope」のイントロを例に出すまでもなく、今から考えると音響的にかなり実験的な事を行っていたのだろう。その成果が現れているわけだ。それに、本作とほぼ同時期に作られていたドン・ディクソンのソロ・アルバムやミッチ・イースターが在籍していたレッツ・アクティヴのアルバムを聴いても、これほど音は良くないんだよね。勿論、彼等は楽曲の旨味をより引き出そうとしていただけであり、「実験君」的な頭でっかちなものではない。その微妙なバランスが何とも心地良い。
いや、音響的な部分だけでなく、様々な部分での「微妙なバランス」こそがR.E.M.の持ち味なのだ。サウンドはフォーク・ロックと呼ぶには疾走感がありすぎるし、パンクと呼ぶには落ち着きすぎている。しかし、だからこそ彼等は、これまで誰も成し得る事のなかった日常に潜む「曖昧さ」を切り取ってみせる事に成功したのだ。
パンクがL.A.やN.Y.といった局地的な場所でしか大きな影響力を持ち得なかったアメリカで、真の意味でパンク的な役割を果たしたのは、パンク・スピリットを胸に抱きつつ「普段着のロック」を鳴らしてみせたR.E.M.なのだと思う。80年代の音楽にはほとんど興味がないように思えるマフスのキム・シャタックもR.E.M.好きだと知った時には、驚いたと同時に非常に納得したものだった(R.E.M.も出演しているドキュメンタリー映画『Athens, Ga: Inside Out』のDVDに推薦文を寄せている)。
本作からの流れでカレッジ・ロック・ムーブメントやグランジがあったりするわけだが、日本でそれをきちんと踏まえた音楽評論を書いていたのは伊藤英嗣を除いては皆無だった。そんなんだからカート・コバーンを変に神格化したり、彼が着ていたダニエル・ジョンストンのTシャツを単なるファッションとしてしか見れないんだっての。全12曲44分。大傑作。
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R.E.M.と言えば映像作品も重要であります。一本だけ推薦するとなれば間違いなくこれでしょうな。本作はアルバム『Green』の発表に併せて行われたワールド・ツアーの模様を撮影したもので、ライヴ・ドキュメンタリーとしては『ストップ・メイキング・センス』をも超える傑作であると個人的には考えている。MTV的な映像処理の最良の部分が出た作品と言えるだろう。
ジム・マッケイとマイケル・スタイプによる共同監督作品で、マイケル・スタイプは以降映画プロデューサーとして『マルコヴィッチの穴』等の重要作を手掛ける事になるわけだが、その萌芽はすでにこの頃からあったのである。
オープニングの「Stand」からラストの「After Hours」(ヴェルヴェット・アンダーグラウンドののカバー!)まで一分の隙もない。マイケル・スタイプの謎のステージ・パフォーマンスもたっぷり楽しめる。「Stand」のダンスとか、「World Leader Pretend」での椅子叩きとか、昔はよく真似したなあ。「Turn You Inside-out」での拡声器パフォーマンスは何度観ても燃える。この間の来日公演でも「Orange Crush」で披露してましたな。
本来ならばMCで行うべき煽りを字幕で済ませてしまうユーモア・センス、ビル・ベリーの軍手といった「らしさ」がたっぷりと詰まった全18曲85分。R.E.M.史上最高の名曲「Fall On Me」のライブ映像が観れるのは本作だけなので必見のこと。