Sister Vanilla/Little Pop Rock
★★★★★
実は、1969年にモーリン・タッカーはヴェルヴェット・アンダーグラウンドをバック・バンドに、ソロ・アルバムを録音していたのだそうだ。その幻の音源が昨年になって発掘され、ルー・リードによるリミックスを施されて発売されたのが本作である。
というような紹介をしたくなってしまうほどのモー・タッカーぶりが微笑ましいシスター・ヴァニラの1stアルバム。
ジーザス&メリー・チェインのラスト・アルバムにして最高傑作『Munki』の収録曲である(その名も)「Moe Tucker」で、ウィリアム&ジム・リード兄弟の妹であるリンダ・リードがボーカルをとっていた事を覚えている人がいるだろうか? 彼女とリード兄弟、そして後期ジーザス&メリー・チェインのメンバーでもあったベン・ルーリーによるユニットがこのシスター・ヴァニラなのである。
いやあ、しかしここまで音楽的にジーザス&メリー・チェインまんまになるとは思ってなかっただよ。サウンドは完全に「Munki」の延長線上で、女性ボーカルという事で少し60年代ガール・ポップ色が強いものの、ジザメリ時代からそうした要素は散見されてたからな。しかも妹がいるのにリード兄弟もボーカルとりまくり!
リンダ・リードの歌唱力は冒頭にも書いたように超モー・タッカー級(つまり下手って事)。ただ、そのおかげで本作が単なる焼き直し、もしくは懐古趣味的なものに陥らずに、瑞々しい魅力をたたえているのだと思う。まあ、46歳のウィリアム・リードと43歳のジム・リードの妹だから、実年齢はそんなに若くないと思うけどさ。
楽曲はメンバー全員による共作で、ジザメリ時代から延々と続く60年代への愛憎入り乱れる感情が感じられるのがたまらない。アルバムを締め括る「The Two Of Us」ではスティーヴン・パステルとリンダ・リードがデュエット! 80年代のグラスゴーを代表する重鎮がついに邂逅を果たしたというだけでも重要でしょう。ロックンロールの神から終ぞ愛される事のなかった孤児達の物語は、まだまだ続くのだ。全11曲38分。
「笑って、生きて、愛して、キスをしたかったのに
愛を手入れられず、キスもしてもらえなかった
それが僕の体験した事」
(「Jamcolas」)
「人の言う事なんか聞いちゃいなかった
頭の中ではパステルズの曲が鳴っていたんだから
ギターを弾いて曲をいくつか書いたり
生き抜くために必要な事をやればいい
この夜さえやり過ごせたら、僕は大丈夫」
(「Pastel Blue」)