『My Salinger Year』でマジックリアリズム的演出が上手く機能しているのを見ると、『グッド・ライ ~いちばん優しい嘘~』のラストの急な展開は、逆にマジックリアリズム的演出が失敗した結果ああなってしまったように思える。原作はありきとはいえ、『My Salinger Year』では久々にフィリップ・ファラルドー自身が脚本を執筆しているのも大きい。『My Salinger Year』を「フィリップ・ファラルドーの英語作品では本作が現時点でのベスト」と考えているのはそれ故です。
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ハル・ベリーが総合格闘家役の「ブルーズド 打ちのめされても」(https://t.co/yQXpAtI6qs)。女性が「手放した子との絆を取り戻す」話って少ないから(前にも書いたけど「ママはレスリング・クイーン」はだから貴重)どんなかなと期待してるんだけど、二時間以上あるようなのでまた後日。。。
— yako (@yako802) 2021年11月24日
「女性が手放した子との絆を取り戻す」映画として個人的に真っ先に思い浮かぶのは、『わが青春の輝き』の監督・主演コンビ、つまりジリアン・アームストロングとジュディ・デイヴィスが再びタッグを組んだ日本未公開作品『High Tide』。『わが青春の輝き』と同様に、誠実に「孤独」に向き合っている作品です。
これとか『スターストラック/わたしがアイドル!』とか、ジリアン・アームストロングの監督作はいつかまたサム・フリークスで上映したいっすね。彼女はサム・フリークス的にめちゃくちゃ重要なはみ出し者映画作家だと思っているので。
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スティーヴ・マーティンの出演作において、(『オール・オブ・ミー』しかり『パパとマチルダ』しかり)楽器を弾くシーンがあればそれは本人に気合が入っている証拠。『マーダーズ・イン・ビルディング』ではコンサーティーナを弾きまくっているので、マジで気合が入っていることが分かる。お得意のバンジョーでないのは、近年のミュージシャン活動で十分披露したという意識があるからだろう。
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『サリンジャーと過ごした日々』(傑作)を映画化した『My Salinger Year』素晴らしかった!本やファンレターを読むことの想像をマジカル・リアリズム的に現実からの飛躍として描いている点がフィリップ・ファラルドーの美点(マーガレット・クアリーの身体性も活かしている)。原作より爽やかな余韻。 pic.twitter.com/gI0r3YiqIq
— 常川拓也 (@tsunetaku) 2021年11月23日
『My Salinger Year』は『本当に僕じゃない!』のフィリップ・ファラルドーの新作で、『マッド・メアリー』のショーナ・カーズレイクが出演し、『まどろみのニコール』のステファヌ・ラフルール(『ぼくたちのムッシュ・ラザール』編集)に謝辞が捧げられているので、「サム・フリークス」的にも必見。 pic.twitter.com/WJQQUae5DD
— 常川拓也 (@tsunetaku) 2021年11月23日
2020年の映画は、『Unpregnant』『Valley Girl』のレイチェル・リー・ゴールデンバーグの年だったが、2021年は『Plan B』『Language Lessons』のナタリー・モラレスの年。『Plan B』で監督としての才能は認識していたけど、『Language Lessons』で役者としても素晴らしいことが証明された。 https://t.co/qXqlNlx7C6
— 常川拓也 (@tsunetaku) 2021年11月23日
現時点での私の2021年の映画ベスト3は1位『My Salinger Year』、2位『Language Lessons』、3位『パーフェクト・ケア』(12月3日公開!)ですよ。『本当に僕じゃない!』はどこかのタイミングで(お金があれば)再上映したいですね。
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『リスペクト』はアレサ・フランクリンの伝記映画なので当然ながら「(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」が歌われているわけだが、最後にちょっとだけ映るキャロル・キングの姿を見て、むしろキャロル・キングの伝記映画の方が見てみたいぞ!という気持ちになってしまった。有無を言わせぬ圧倒的な歌唱力を持つアレサ・フランクリンよりも、歌唱力は1.5流(と敢えて言う)、さらにはステージ恐怖症を抱えながらも、そんな自分のありのままの姿をさらすことで「シンガー・ソングライター」として広く受け入れられたキャロル・キングの人生の方が音楽映画として深みが出る気がするんですがどうでしょうか。
ジュークボックス・ミュージカルの『ビューティフル』はあるし、キャロル・キング「風」の非公式音楽伝記映画の『グレイス・オブ・マイ・ハート』もあるんだけど、やっぱり(ドキュメンタリーではない)公式の伝記映画は本人の存命中だと厳しいのかしら。
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『ザ・ビートルズ:Get Back』を観るためにディズニープラスに再加入したので、ついでに『マーダーズ・イン・ビルディング』も観れるのが嬉しい。近年はミュージシャンとしての活動に専念していたスティーヴ・マーティンの久しぶりの脚本・主演作で、ここ10年ほどの空白期間を埋めるかのようにキレキレのライティング。マーティン・ショートとのコンビ芸もキレキレ。21世紀のミステリー版『ロンリー・ガイ』といった趣きもある。間違いなくスティーヴ・マーティンの新たな代表作だ(ってことはコメディとしても一級品ってこと)。あと、やっぱりTVシリーズは1時間ものよりも30分ものの方が飽きなくていいやね。