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シー&ヒムやレジーナ・スペクターがいて、ビートルズのリマスター盤も9月に発売されるという、ビートリーな今の気分にドンピシャなアルバムが再発された。
いや、「再発」というよりは「発掘」という言葉の方が相応しいか。なにしろ、本作は77年〜78年にかけて録音されながらも、96年になるまで音源化されなかったという幻のアルバムで、それにボーナス・トラック12曲を加えて日本盤化したのが本作なのだ。おいらもつい最近までまったく知らなかったんだが、シューズの来日公演を主催した超良心的なレーベル、エアー・メイル・レコーデイングスから発売されるということを公演会場で配られたチラシで知って、興味を持ったというわけ。
「ジャムはザ・フー、ストラングラーズがドアーズ、俺たちブームタウン・ラッツがローリング・ストーンズって評されるのなら、奴らはビートルズだろう」というボブ・ゲルドフによるプリーザーズ評は実に的確で、サウンドはモロに『With The Beatles』〜『A Hard Day's Night』辺りのビートルズを彷彿とさせるパブ・ロック。アルバム・タイトルは「マージービート」のモジリだし、(スパジーズに先駆けて)エンジェルズの「My Boyfriend's Back」をカヴァーしていたり、ジョン・レノンの処女作と同名異曲の「Hello Little Girl」なんてナンバーがあったりするのも楽しい。初期ビートルズのパスティーシュとしてはラモーンズの『Ramones』やシー&ヒムの『Volume One』などに匹敵する傑作であると自信を持って断言しよう。
まあ、パブ・ロックにしてはアイドル度が高めなので、それ故に当時はお蔵になったのかもしれない。そもそも、モンキーズを手掛けたトミー・ボイスをプロデューサーにチョイスしてるって時点でパブ・ロック/パンク的には微妙で、おそらくはセックス・ピストルズが「(I'm Not Your) Steppin' Stone」をカヴァーしていることもあってレコード会社もスタジオ入りさせたんだろうが、トミー・ボイス自身は本作の少し後にイギー・ポップの低迷期を象徴する『Party』において悪名高き追加録音を行う人なわけで、時代の空気とズレていたのは明らか。でも、今聴くんだったらそんなのは大きな問題にならないよな。というか、逆に今だからこそ、その真価を堪能できるというかさ。