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UKグライム・シーンを代表する白人女性MCの1stフル・アルバム。久保憲司がリリー・アレンを評して、「しかしぼくとしては、彼女は(キース・アレンの娘なんかじゃなくて)ロンドンの下町娘だったらもっとよかった」と書いていたけれど、ロンドンはニーズデン出身のレディ・ソヴリンはそこに完璧に当てはまる。
音楽的にはザ・ストリーツやディジー・ラスカル、そしてM.I.A.以降の流れを汲んだ最新のグライム・サウンド。ザ・ストリーツことマイク・スキナーををさらに鋭くしたかのようなコックニー訛り丸出しのフロウと、下町の喧騒が聞こえてきそうな猥雑な雰囲気の楽曲の数々は、その捻くれたユーモア・センスも相俟ってまるでキンクスやマッドネスのようですらある(マジで)。だから彼女が「9 To 5」でオーディナリー・ボーイズと競演していたのは必然なのだ。時おり「ふてくされた女の子の純情」が顔を覗かせるのがまた切なくて良いんだよなあ。
女性シンガー・ソングライターの伝統がないイギリスだが、昨年のM.I.A.に続いて彼女が登場したことで、徐々にではあるが新しい形でそうした系譜が根付こうとしているんじゃないかと思ったことだった。それはつまり、日常生活の中で自分が思ったことを、自分自身の言葉で、自分自身のメロディに乗せて、呼吸するように歌っていく/ラップしていくということだ。現代におけるシンガー・ソングライターの正しいあり方を体現した大傑作、と思う。ジェイZに認められ、今作にミッシー・エリオットが参加しているのはダテじゃない。全13曲48分。必聴。
Lady Sovereign - Love me or Hate Me