『Blinded By The Light』で主人公のガール・フレンドがレッド・ウェッジを支持しているってのは改めて思い返しても熱い設定だったな。レッド・ウェッジはビリー・ブラッグやポール・ウェラー、ジミー・ソマーヴィル等のミュージシャンが率いた政治団体。彼等は若者に向けて労働党への投票をうながす運動を行い、『パレードへようこそ』の題材となったLGSM(炭鉱夫支援同性愛者の会)の中心人物マーク・アシュトンもレッド・ウェッジのメンバーだった。で、そもそもビリー・ブラッグはUKのブルース・スプリングスティーン的な存在なので(以前にメアリー・ルー・ロードと「ビリー・ブラッグってイギリスのブルース・スプリングスティーンですよね!」というような話をして盛り上がったのを思い出す)、レッド・ウェッジのサポーターである彼女とブルース・スプリンスティーン好きの主人公が惹かれ合うのは凄く納得できるんすよね。というわけで『Blinded By The Light』は『パレードへようこそ』から地続きの内容なので、2本立てで続けて観たりしたらさらに面白いと思う。
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『Blinded By The Light』での主人公のガールフレンド(ネル・ウィリアムズ)、めちゃくちゃチャーミングで最高だったすね。『イエスタデイ』でのリリー・ジェイムズはただの木偶の坊にしか思えなかったけど(リリー・ジェイムズは『ガーンジー島の読書会の秘密』の時の方が500倍は良い)、『Blinded By The Light』でのネル・ウィリアムズは親の政治信条に反発していたり社会運動に積極的(レッド・ウェッジを支援!)だったりと、そういう細かい描写の積み重ねがしっかりしていて彼女のキャラクターが独立した人格として魅力的なものになっていたと思う。
あと、『Blinded By The Light』を観て、ニック・ホーンビィの『ソングブック』(大好き)の「サンダー・ロード」の章を思い出したりもした。
ときに、ほんのごくたまにではあっても、歌や書物、映画や絵画は、人間というものを完璧に表現してしまう。(中略)それは、恋に落ちるときに似たプロセスだった。かならずしも最高の相手や、いちばん頭のいい相手や、いちばんきれいな相手を選んだわけじゃないかもしれない。でもそこには、別の何かがある。(中略)どちらにせよ<サンダー・ロード>という歌は、ぼくの気持ちを理解しているし、ぼくがどんな人間であるかを知っている。とどのつまりそれは、アートというものが持つなぐさめのひとつだ。
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ブルース・スプリングスティーンでどれか1曲となれば「The Promised Land」だし、アルバムをどれか1枚となればデビュー作の『アズベリー・パークからの挨拶』を自分は選ぶかなー。そういえば、スプリングスティーンの大ファンであるエドワード・バーンズも自身の監督作『サイドウォーク・オブ・ニューヨーク』の中で、登場人物に「ブルース・スプリングスティーンを聴き始めるなら、まずは『アズベリー・パークからの挨拶』から聴いてくれ」と言わせていたのだった。
あと、『Blinded By The Light』を観て改めて思ったのは「Jungleland」や「Badlands」のサウンドって完全にフーだな、ということ。というかスプリングスティーンは「Badlands」でフーの「Baba O'riley」のコード進行をパクっているわけだけど、ピート・タウンゼントはこれを意識してフーの「It's Hard」で「Badlands」をパクリ返しているのだった(ピート・タウンゼントがパクリ返したリフの元ネタは実はアニマルズの「Don't Let Me Be Misunderstood」なので、まあ色々とややこしい話ではあるんだが)。
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映画『Blinded By The Light』(監督:グリンダ・チャーダ)観賞。★★★★★。
なんてチャーミングな青春音楽映画! サッチャー政権下のイギリスを舞台に、パキスタン系の青年がブルース・スプリングスティーンの音楽と出会って人生が変わる話を描いた本作は、タイトルをスプリングスティーンのデビュー・アルバムの1曲目から採り、劇中で「Born To Run」をフルコーラスで流すぐらいにはガチな内容だぜ。
多幸感溢れるミュージカル風な演出がとにかく楽しいし、主人公のガールフレンド(ネル・ウィリアムズ)が社会運動に積極的だったりして活き活きと描かれていたり、意外とクラブ描写がリアルだったりするのも良い(グリンダ・チャーダは『ベッカムに恋して』でのクラブ描写も良かった)。
ただ、クライマックスにおける「演説」は、感動の押し付けになりがちな(特にアメリカ映画に多い)悪癖だと思っているのでやや退屈。とはいえ、アメリカ文化に憧れるパキンスタン系イギリス人を主人公した英国映画で、インド系イギリス人であるグリンダ・チャーダがこうしたアメリカ映画のお約束を行うという点に文化的な重層性を感じて興味深く観た。っていうかこの映画、実は『闇に吠える街』そして「The Promised Land」推しなんだよな。いやー、最高じゃないか。一緒に飲みに行こう!