20世紀のグレッグ・アラキ映画は『トータリー・ファックト・アップ』『ドゥーム・ジェネレーション』『ノーウェア』の「Teen Apocalypse Trilogy」に代表されるように、全体に終末感が濃厚に漂っているのが大きな特徴だ。これはエイズの蔓延が強く影響しているのは明らかで、HIVに感染した男達の逃避行を描いた『リビング・エンド』では、ラストに「共和党のクソ野郎どものせいで死ぬことになるであろう数十万の人々にこの映画を捧げる」というド直球なメッセージが提示される(キリスト教保守派を支持基盤とする共和党は、エイズを「神に背いたゲイへの天罰である」という勝手な偏見で捉えており、具体的な対策をほとんど講じなかった)。
その後、HIVに対する様々な抗ウイルス薬が開発されたこともあって、現在ではHIVに感染しても平均寿命を全うすることがほぼ可能となった。21世紀に入ってからのグレッグ・アラキ映画に「それでも人生は続いていく」という色合いが強く出てくるようになったのは、おそらくそれ故だろう。2007年の『Smiley Face』(私見ではグレッグ・アラキの最高傑作)は徹底的にアホなマリファナ・コメディでありながらも、ラストでは「高速道路でゴミ拾いをするような人生になっても、私は生きていける」というタフネスすら感じさせる(これはアンナ・ファリスの名演によるところも大きいのだが)。2010年の『カブーン!』は「Teen Apocalypse Trilogy」のセルフ・パロディのような作品だが、それらと比べるともっとあっけらかんとしていて、むしろ「世界の終わり」さえも茶化してみせる自由さこそが物語を軽やかにドライブさせているのだった。