★★★
『Volume 3』から1年半を経て発表されたシー&ヒムの新作はカヴァー集。ズーイー・デシャネルの趣味を反映して30〜60年代のナンバーで固められており、名著『イージー・トゥ・リメンバー: アメリカン・ポピュラー・ソングの黄金時代』絡みの楽曲が全13曲中6曲を占める(同著掲載曲が4曲、同著掲載ソングライターのペンによる楽曲が2曲)。
デビュー当初のライヴでの演奏されていた「Oh No, Not My Baby」を筆頭に、彼女達は未音源化のカヴァー曲がやたらと多い人達だったわけで、それらをきちんとした形で世に出そうというのが本作制作の動機だったのだろう。ズーイー・デシャネルという人は何でもきちんと具体的な形にしていかないと気が済まないワーカホリックな性分で、それ故に一介のコメディ女優であった彼女がシー&ヒムを結成したり、ハロー・ギグルスを立ち上げたりして現在に至るのだから、本作の発表も必然というべきだ。
ちなみに本作はコロムビアへの移籍第一弾アルバムなんだが、メジャー・デビュー作でこういうカヴァー集をぶつけてくる姿勢は非常に独立独歩で素晴らしいと思う。コロムビアが長年に渡って培ってきたノウハウを活かして往年のポップス風のビッグなプロダクションをしっかり再現しているところも含めて、ズーイー・デシャネルが抱いているであろう、ポピュラー・ミュージックの歴史に対する敬意を強く感じることができる。とはいえ、やはりこうしたカヴァーはズーイーのペンによるオリジナル曲中心のアルバムの中で、それらのルーツを示す意味で同列に提示していった方がよりいっそう映えるのは間違いないと思うのだ。というわけなので、さっさと『Volume 4』に取り掛かってくれー。