映画『Mammoth』
(監督:ルーカス・ムーディソン)
★★★★★
ヒューマン・トラフィッキング/売春奴隷犯罪について描いた破格の傑作青春映画『リリア 4-ever』以降は、(まるで『ハードコアの夜』の主人公のように)その問題に没入するあまりに演出家としての自分を見失い、『A Hole In My Heart』や『Container』といった露悪的&自己満足なゴミ映画しか撮れなくなっていたルーカス・ムーディソンだが、本作でようやくそのトンネルから抜け出たといっていいのではないだろうか。
今回はミシェル・ウィリアムズとガエル・ガルシア・ベルナルという国際的に知名度のある俳優を主演に起用しての本格的な英語作品だが、特にアメリカ進出を狙っているわけではなさそうなところがいかにもルーカス・ムーディソン。ジェナ・マローンをナレーターに起用した『Container』はもしかしたら本作の前哨戦的な意味合いがあったのかもしれない。扱っている題材は『リリア 4-ever』の延長線上にあるもので、『闇の子供たち』に対する本家からの回答といってもいい。最初から最後まで静かな緊張感が途切れることなく持続する見事な社会派人間ドラマであり、絶望と孤独でくじけそうになりながらも、その中でかすかな希望を見出す家族の物語として帰結する。ルーカス・ムーディソンの真骨頂が久々に発揮された傑作だ。ミシェル・ウィリアムズもガエル・ガルシア・ベルナルもキャリア最高峰といっていい名演。あと、やっぱり子供の使い方/演技のつけ方が巧いんだよな。
『ショー・ミー・ラヴ』ではロビンとブローダー・ダニエルを、『エヴァとステファンとすてきな家族』ではアバとナザレスを、『リリア 4-ever』ではラムシュタインとt.A.T.u.を大フィーチャーするなど、既成曲の使い方が抜群に巧かったルーカス・ムーディソンだが、本作ではレディトロンとキャット・パワーを大フィーチャー。この辺りの冴えも近作にはなかったもので、彼の復調/復活を強く印象付けるものである。必見。