映画『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(監督:ペイトン・リード)観賞。★★★。
どうしたって邦題からは自己啓発セミナー/自己啓発本っぽい印象を受けてしまうとは思うんだが、ダニー・ウォレス著の原作はそういう類のものではない。そもそも彼のキャリアの出発点&代表作であるデイヴ・ゴーマン(ヘレン・ラヴの大ファン)との共同企画『Are You Dave Gorman?』が、デイヴ・ゴーマンが自分と同じ「デイヴ・ゴーマンさん」を54人探すというドキュメンタリーであることからも分かるように、『イエスマン』も『電波少年』や『スーパーサイズ・ミー』的なチャレンジ・ドキュメンタリー本なのだ。つまりネガティヴでペシミスティックな人生観を持っているとされているイギリス人のパブリック・イメージに逆らってダニーが何にでも「イエス」と答えるのが面白いわけ。
映画の方は「何にでも“イエス”と答える」というシチュエーションを頂いているだけで、ストーリーなどに特に関連性はない。映画版の製作者達も自己啓発セミナーを馬鹿にしているのはオチなどからも明らかではあるものの、舞台がイギリスからアメリカに移ったことによって自己啓発っぽいノリが若干ながら強まってしまっており、「イエス!」なポジティヴ思考を続ける自分自身を(間接的にではあるが)「愚鈍」として描いていた原作のシニカルなノリが弱まっているのは(予想できたことだとはいえ)少々残念。
とはいえ、ズーイー・デシャネルがチャーミングなヒロインを演じているというだけで本作には観る価値がある。彼女の扱いが大きいことによって映画のビートリー度も高めになっていて、ジム・キャリーがリンゴ・スターの名台詞「I've got blisters on my fingers!(指に水ぶくれができちまった!)」(@「Helter Skelter」)を叫び、ハリウッド・ボウルでジム&ズーイーが「Can't Buy Me Love」を歌うのだ。ズーイー・デシャネルから広がるビートリー・ムーヴメント。彼女の歌も劇中できちんとフィーチャーされているので(これだけで『ハプニング』よりも本作の方が優れていると言える)、サウンドトラックも勿論必聴だけど、彼女自身の音楽ユニットであるシー&ヒムの方にもぜひ興味を持って欲しいな。超ビートリーで本当に素晴らしいから。
『ディック&ジェーン』で比較的早い時期からジャド・アパトーと絡んでいたジム・キャリーだけあって、本作にもジャド・アパトー組の重要メンバーが参加しており、脚本には『寝取られ男のラブ・バカンス』のニコラス・ストーラーが、音楽監修にはジョナサン・カープが関わっている。
ちなみに本作の日本版公式サイトやプログラムではこれまでの慣例に逆らってズーイー・デシャネルが「ゾーイ・デシャネル」表記になっているんだが、いくら「ゾーイ」の方が実際の発音に近いとはいえ、これは映画会社がズーイーをきちんと認識していなかったという怠慢によるところが大きいと思う。だから本作における表記が媒体ごとに(配給しているワーナーのサイト内ですら)バラバラで全く統一されていないし、Variety Japanなどでは(以前に危惧していたように)これまでの「ズーイー・デシャネル」と今回の「ゾーイ・デシャネル」が別人として扱われてしまっているのだから。それにズーイーはデスキャブのツアーに同行して2月半ばに来日していたわけだから、映画会社にやる気があるんだったらインタビューの1本でも取ってくるはずだもんな。