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1995年に発表されたモロコの1stアルバム『Do You Like My Tight Sweater?』は、当時流行していたトリップホップという辛気臭い音楽に対する底意地の悪いパロディだった。98年に発表された2ndアルバム『I Am Not A Doctor』はすでに終わったトレンドであったドラムンベースを全面展開した皮肉っぽい内容だった。これらは彼等なりの「90年代的」なるものに対しての返答、もしくは嫌悪感の表明だったのではないかと思っている(Gファンクだけは好意的かつ積極的に取り入れている選球眼の良さにも注目)。つまりは脱90年代的な発想だ。そして、脱したとなれば、次の時代に相応しい音楽を探す/作る必要がある。そう、彼等が本当に「自分達のもの」といえる音楽を奏ではじめたのは、奇しくも2000年ちょうどに発表された3rdアルバム『Things To Make And Do』(タイトルも象徴的)からなのである。
このアルバムは彼等にとっての「覚醒」だ。先行シングル「The Time Is Now」でアコースティック・ベースが鳴らされた瞬間に、ポップ・ミュージックの00年代は始まったのだ。フロア仕様であると同時に、AMラジオ向けの「うた」もしっかりと作られている。ジャンル分け不能な、「モロコ」としか言いようがない音楽がそこにはあった。モロコのひとつの到達点である。だが、彼等の快進撃はまだ終わらなかった。2003年には、『Things To Make And Do』を遥かに超える怪物アルバム『Statues』を生み出したのだ。これは言うなればファンク仕掛けの『The Dreaming』(by ケイト・ブッシュ)である。今になって考えてみると、おそらくは公私共にパートナーであったマークとロイシンの破局がこのアルバムの原動力になったのではないかと思う。二人が徹底的に「孤独」に向き合うことによって、ほとんど宇宙的ともいえる破格のサウンドとエモーションを生み出したのだ。音楽によってしか気持ちを伝え合えないなんてこれ以上ないほど悲しい事だが、だからこそ同作が特別な存在に成り得たのである。
本作はそんなモロコの活動の軌跡を纏めたベスト・アルバム。「覚醒」の序曲である「The Time Is Now」で始まり、マークとロイシンの愛が砕け散る「Statues」で終わる全13曲57分。これこそが00年代のスタンダードだ。必聴。
というわけで、現在絶賛活動停止中のモロコだが、今後再び活動する可能性はあるのかねえ? ロイシン自身はインタビューで、「モロコの今後の予定については完全に白紙だけど、別にやりたくないわけじゃない」と言っていたから、可能性が全くゼロになったわけではないと思う。日本だとハーバート効果で(モロコを無視していた)アホどもが絶賛した『Ruby Blue』も、向こうだとアンダーグラウンド・ヒットに留まっているし、やはり多くの人が「ロイシンの多重人格ボーカルに最も合うトラックを作れるのはマーク・ブライドンしかいないんだよ!」と思っているはずなのだ。ま、それは彼等自身が一番よく分かっているだろうから、希望はまだあるはず。…とか考えていたら、なんと本作のプロモーションのためにマークとロイシンがBBC放送でアコースティック・ライブを敢行してしまったぜ! やっぱりモロコは終わってなんかいなかったのだ!