★★★★
ブルース・スプリングスティーンという人は多作家ではあるんだが、『The Rising』以前の彼は選考基準があまりにも厳しすぎたためにアルバムという形に到達するまでに非常に時間がかかっていた。21世紀以降はその反省を踏まえて、基準を少し緩めてどんどんアルバムを出していこうという姿勢になったように思う。つまり『Tracks』のような状態になるまで楽曲を溜め込むのはよそう、ということだ(いつ死ぬか分からないし)。だから『Devil & Dust』や『Working On A Dream』のような、必ずしも傑作とは言い難い作品も出てきているわけだが、その時の「気分」の記録としてそれはそれで面白いじゃんかよ!21世紀のアルバム群にポップな軽い楽曲が増えているのは明らかにその影響だろう。でもまあ、それでも未発表曲/きちんとした形でアルバムに収められなかった楽曲は溜まってきてしまうということで(どれだけ多作家なんすか)、それらを新録中心でまとめたのが本作というわけ。
ちなみに以前に発表された未発表曲集『18 Tracks』はブルース・スプリングスティーンの最高傑作の1つだとおいらは考えているんだが、それに比べると本作が若干弱いのは彼がリリースに積極的になった21世紀以降の楽曲が中心だから。もしも本作が『18 Tracks』級の充実度だったら彼の方向転換が上手くいっていなかったことになってしまうのだから、これはこれで良い結果と言えるのではないだろうか。個人的には以前にアラン・ヴェガの生誕70周年を祝う形でひっそりと発表されていたスーサイドのカヴァー「Dream Baby Dream」*1がきちんとした形でアルバムに収録されたのが特に嬉しいっすね。オーストラリア録音の勢いに乗って(オーストラリアのパンク・バンドである)セインツのカヴァー「Just Like Fire Would」を収録していたりするのも21世以降のスプリングスティーンらしくて素敵*2。全12曲56分。
↑CDには「Dream Baby Dream」も収録されているスーサイドの2ndアルバムは(世評の高い1stを遥かに超える)傑作エレクトロニック・ロックンロール・アルバムだと思う。なぜかパワー・ステーションで録音されていて*3、この時に隣のスタジオで『The River』を録音していたブルース・スプリングスティーンと交流を深めたとのこと。