映画『ダージリン急行』(監督:ウェス・アンダーソン)観賞@東京国際映画祭。★★★★★。
素晴らしい。素晴らしすぎる。これは本質的な意味において『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組 第1回戦』の完璧な映画化と言えるのではないだろうか。不満があるとすれば、せっかく物語にシンクロしてキンクスのナンバーが大々的に流れるのに、その歌詞を日本語字幕で流してくれないところか。というか、ウェス・アンダーソン映画の日本公開版って、いつも劇中で流れる(映画のテーマを代弁した)ロック・ナンバーの歌詞に日本語字幕を付けないから(『天才マックスの世界』でのフェイセズの「Ooh la La」とか『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』でのヴァン・モリソンの「Everyone」とかさあ)、そのせいで「スタイリッシュな映画」という誤解が生じているように思うんだが。ウェス・アンダーソンの映画って、ひねくれていてノホホンとした振りをしてはいるけれど、その胸の奥には物凄く熱いものを秘めているところが良いんだからさ。そう、まさにキンクスのように。
この世界には多くの人々の悲しみが溢れている
僕は時々、自分の激情が抑えきれなくなる
長く生きていれば死ぬのが怖くなるだろう
だから僕の持ち物は全て君と分かち合おう
明日も今日と同じ気持ちなら
欲しいものだけを取って、後は捨ててしまおう
君と僕は同じ道を旅する他人同士
僕等は二人じゃなくて一つなんだ
ウェス・アンダーソンの前2作(『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』と『ライフ・アクアティック』)も傑作だとは思うけれど、今になって考えてみると綺麗に纏まりすぎているが故の息苦しさがあったのも事実。ところが本作ではインド・ロケという制約があったせいだろうか、『アンソニーのハッピー・モーテル』や『天才マックスの世界』の頃の瑞々しい勢いが見事に復活しているのであった。前2作がプロトゥールズを駆使して作り上げた緻密なポップ・アルバムだったとするならば、本作は8トラックのアナログ録音によるギター・ロック・アルバムといった感じ。もちろん前2作を経てさらに磨かれた鋭いポップ・センスも堪能できる。
ちなみに、この映画はウェス・アンダーソンとオーウェン・ウィルソンのデビュー作である『アンソニーのハッピー・モーテル』と、ジェイソン・シュワルツマンのデビュー作である『天才マックスの世界』の「その後」を描いた作品でもある。だからオーウェン・ウィルソンはやたらと予定表を作りたがるのだし、だからこそのジェイソン・シュワルツマンのウェス・アンダーソン組への復帰なのだ。そして、そんな原点回帰に新たな風を吹き込むのがエイドリアン・ブロディ(ヒョロヒョロな体型が面白すぎ。『ダミー』を観た時も思ったけれど、この人はもっとコメディをやるべきだ)。もうこの3人が兄弟という設定からして最高じゃないか!
『アンソニーのハッピー・モーテル』と並ぶウェス・アンダーソンの最高傑作。日本公開は来年3月なので今から期待して(『ローラ対パワーマン』を聴きながら)待つべし!
The Official Trailer for The Darjeeling Limited