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2003年の全英ツアーをもって惜しくも解散してしまったシェッド・セヴンだが、まさかこんなアルバムがあったとは見逃してたぜ。ウイングスの未発表ドキュメンタリー映画からタイトルを頂いた本作は、シェッド・セヴンが2001年から2003年の間に録り貯めていた、本来ならば5thアルバムとして発売されるはずだったはずの音源をまとめたもので、2005年にバンドのオフィシャル・サイトを通じて1000枚だけ限定販売されていたのだが、実は2006年に入って日本盤が密かにリリースされていたのであった。
シェッド・セヴンというバンドの楽曲は、ギター・ラインはおそろしく良く書けているんだが、歌メロがそれをなぞっているだけな為に、「うた」としての魅力に乏しいのが唯一にして最大の欠点であった。ギタリストがポール・バンクスから(結成当初のオリジナル・メンバーでもあった)ジョー・ジョンソンに交代して発表された4thアルバム『Truth Be Told』では、そこからの脱却の兆しは窺えたものの、大半の楽曲は前3作の路線を踏襲したもので、新境地は「Love Equals」などの数曲で見せるに留まっていた。
ところがどうだ、本作では全曲で「うた」を中心に据えたバンド・アンサンブルがガッシリと固まっているじゃないか! しかも、「Dolphin」のグルーヴが一回り大きくなって戻ってきたかのような「I Got Music」があり、「Getting Better」をさらにキャッチーにしたかのような「Wake Up Dead」があるという、サウンド的にもキャリアの集大成といっていい内容。その中でも特に「Some People」は名曲だ。この間から、おいらの頭の中ではこの曲のメロディが絶えず鳴り続けているぜ。シェッド・セヴンでこんな経験をしたのは初めてのことだ。
シェッド・セヴンのボーカルであったリック・ウィッターは、以前からR.E.M.のようなバンドになりたいと公言してはばからなかった岡村隆史似の素敵な奴なんだが、本作における彼等はまさにそうした領域に到達しているように思った。彼等が解散してしまったのは、これらの会心作が全く周囲から受け入れられなかったことが原因だったのではないだろうか。だからやっぱりノスタルジーって本当に意味のないものなんだよな。ブルートーンズの『The Bluetones』との並聴を勧めたい、90年代組の底力が存分に感じられる傑作だ。全13曲53分。必聴。