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ウィータスが2003年に発表した大傑作『Hand Over Your Loved Ones』が『Suck Fony』とタイトルを変えて再発された。どうやら「Hand Over Your Loved Ones」の発売をめぐって所属レコード会社であるソニーと一悶着あったらしく、その結果彼等はクビを切られてしまったらしい。で、音源の権利を取り戻して自主レーベルから発売し直したのが本作と。つうわけで「Hand Over Your Loved Ones」発売の際に書いた感想文を加筆修正して以下に再掲しておく。
ウィータスの2ndアルバム。バンドのキーマンであると思われていたフィル・ジムネズが子供の誕生により脱退し、キーボディストとしてシャノン・ハリス(イギリス人)が、女性コーラスとしてキャスリン・フロガットとリズ・ブラウン(ブラウン兄弟の妹だ!)が加入するという大幅なメンバー・チェンジが行われてから製作された本作、作品の質感としてはあくまで1stの延長線上ではあるものの、はっきり言って前作が比にならないくらい濃縮ウィータス汁垂れ流しまくりの大傑作に仕上がっているのだから聴いて驚け!
詳しく書くと、シングル「American In Amsterdan」の感想にもあるように、バンドのVo&G兼ソングライターであるブレンダン・ブラウンが、作詞作曲は勿論、楽曲のアレンジからプロデュース、そしてさらにはエンジニアリングまで一手に引き受けた事で、彼のソロ色がより強まっているのが大きな特徴。そもそも、彼の頭の中の脳内妄想バンドこそがウィータスの起源なわけで、このバンドに限ってはこれがこそが「バンドとしての進歩」に他ならないのだ(ま、次作以降はどうなるか分からんけど)。そして、実際に前作以上に風通しの良いキャッチーな仕上がりになっているのだから文句ないっすよ。
リズム・トラックから始まる曲がやたらと多いのは、この人達の基本が未だに宅録である証左。っていうかまあ、今作の録音場所はブレンダン・ブラウンの自宅なんだが(ぉ)。「The Song That I Wrote When You Dissed Me」や「Anyway」での、普通ならキーボードで奏でられるであろうミニマル的なシーケンスをギターで弾いてしまう、といった遊び心もいかにも宅録野郎らしい。
また、ガーシュウィンの「American In Paris」をもじった先行シングル曲「American In Amsterdan」を筆頭に、楽曲の端々から音楽の「繋がり」に対する敬意が滲み出ているのに大好感。特にコンテンポラリーなブラック・ミュージックに対する敬意が強く感じられるのが嬉しいじゃないか。
例えば「Freak On」はミッシー・エリオットの「Get Ur Freak On」からインスピレーションを得て作られた曲だし(なんせ2001年末に行われたUKツアー中の仮題はまんま「Get Your Freak On」だったからな。)、「Whole Amoeba」にはN.W.A.の「Fuck The Police」ネタが織り込まれている。そして、外道白人ミクスチャー・バンドと違って、そういった敬意を、ラップをしたりといった直接的な方法は用いずに、あくまでもポップ・ロックの範疇から表現している点が素晴らしい。というか前作の「Wannabe Gangsta」はそういう奴等に対する批判ソングだったわけだが。
再発に際しては、全曲マスタリングがやり直されており、一部の曲ではミックスも異なっている。追加収録されたのは「Hit Me With Your Best Shot」と「William McGovern」の2曲。「Hit Me With Your Best Shot」は言うまでもなくパット・ベネターのカバー。「William McGovern」はブレンダン・ブラウンのウィリー・ネルソン好きが窺えるアイリッシュ風味のカントリー・バラード。曲順も「Hand Over Your Loved Ones」とは微妙に違っているのだが、まあ大傑作である事には変わりないので、あまり気にしなくてもよいと思う。
最後に、よく比較対象となるウィーザーとウィータスの決定的な違いについて書いておくと、「前者が女好きであり後者が(自分を含めた)男好きである点にある」(From wad's 映画メモ)。もっと言えば、前者は無意識のうちに「男性性」の醜さを晒している部分が少なからずあるわけだが、後者はそういった点についてもきわめて自覚的であるという事だ。例えば、彼女の浮気を疑う男について描いた「Lemonade」(今作に収録)での、「I knew that you would/I knew 'cos ya told me it runs in the family/and I did the same/so I guess that I deserve half of the blame」というフレーズなど、ウィーザーのリヴァース・クオモは死んでも捻り出す事が出来ないものであろう。
これ以外の歌詞も相変わらずボンクラ全開で、前作以上に笑える&泣ける。そのひねくれっぷり及びメロディー・センス含め、やっぱり彼等は「米国出身の英国バンド」とも言うべき貴重な存在だよなあ。最高っす。おいら内の2003年度年間ベスト10第2位。全12曲45分。必聴。