Helen Love/This Is My World
★★★★★
シングル曲をまとめたコンピレーション・アルバムの『Radio Hits』シリーズもあるのでややこしいが、本作はヘレン・ラヴにとって6枚目となるオリジナル・アルバム。まず一聴して気付くのはアコースティック・ギターの大幅な導入。これによって、従来のハイパーポップ路線(とあえて言う)ではなく、ヘレン・ラヴのシンガー・ソングライター的側面を前面に押し出して2013年の傑作『Day-Glo Dreams』の発展形を展開させている。歌詞の方も『Day-Glo Dreams』収録の「Our Mum And Dad」の延長線上といえるヘレン・ラヴの半自伝的な内容。つまりそれは、ウェールズの炭鉱労働者の家庭で育った少女が、サッチャー政権下で行われた炭鉱ストライキの苦境を、音楽を心の支えにサバイブしてきた物語だ。もうほとんど『パレードへようこそ』とかケン・ローチの世界ですよ。「Billy Liar」でキッチン・シンク・リアリズムを代表する映画の一つ『うそつきビリー(原題:Billy Liar)』をモチーフにしているのも、きちんと筋が通っているわけだ。80年代の炭鉱労働者のストライキで使われていたスローガン「COAL NOT DOLE(失業保険ではなく石炭を)」がジャケットで掲げられている点にも注目すべし。ヘレン・ラヴの新たなる到達点。