『37セカンズ』の冒頭での漫画雑誌の編集長(板谷由夏)が語る「セックスをしたことない人が描いたエロ漫画なんてリアリティがなくてつまらない」という台詞には自分も引っ掛かったんだけど(想像力次第でどうにでもなるのがアートの真髄だろ、という)、映画を最後まで観て、あれはそういう的外れなアドバイスを真に受けてしまうぐらいに主人公のユマが世間知らずな箱入り娘だったということなのだと思った。そこも含めてちゃんとコメディになっている。最後でも「藤本さん(編集長の役名)にお会いしてから、色んな経験ができました」と、きっかけになったことに感謝しているだけで、アドバイスの内容自体には感謝してないんすよね。細かいけれども意外と重要だと思う。また、映画の前半はリアリティ重視で、後半ではファンタジックな展開になるのも、この編集長のアドバイスに対する「リアリティも想像力もどちらも大事だよ」という映画側からのはっきりとした回答になっていると思う。
板谷由夏演じる編集長はユマの母親とも二重写しになる。どちらも決して悪人ではないが、母親だからって娘のことを全て分かっているわけじゃない、漫画雑誌の編集長だからって漫画のことを全て分かっているわけじゃない、という風に描かれているようにも見えた。最終的にユマは2人が求める道とは違う道を進んで彼女達を納得させるわけで、(目上の人間も全てを分かっているわけじゃなので)彼等の望む通りに生きていく必要はない、自由に生きていいんだ、という物語になっていることに作り手の優しさを感じたのだった。