カナダの鬼才監督ブルース・マクドナルドの最新劇場公開作品である『Weirdos(変態たち)』は、1976年を舞台にゲイの少年が幼馴染の少女と共にカナダのシドニーを目指して旅をする話。オープニングでニルソンの「孤独のニューヨーク( I Guess The Lord Must Be In New York City)」を使って『真夜中のカーボーイ』へのオマージュを捧げるという捻り方がブルース・マクドナルドの鬼才たる所以だろう。
「孤独のニューヨーク」はニルソンが『真夜中のカーボーイ』の主題歌として書き下ろした楽曲だが、楽曲が完成するまでの仮曲として映画に当てられていたニルソンの「うわさの男(Everybody's Talkin')」の方を監督のジョン・シュレシンジャーが気に入り、結局「孤独のニューヨーク」は『真夜中のカーボーイ』の主題歌としては没になったのだった。「うわさの男」と「孤独のニューヨーク」のテンポや曲調がほとんど一緒なのは、「孤独のニューヨーク」が「うわさの男」からの差し替えを念頭に置いて作られた楽曲だから(この辺りの顛末については『ハリー・ニルソンの肖像』に詳しい)。
で、「うわさの男」ではなくて「孤独のニューヨーク」を使うという『Weirdos』の捻りの入れ方は、「アメリカン・ニューシネマ風だけど、そのまんまアメリカン・ニューシネマをやるわけではないよ」という目配せになっているわけだ。だから当時の映画のような悲劇的な結末を迎えることはないであろうという予測が立つので安心して観ることができる。