一生懸命努力している人を冷ややかな目で嘲笑うようなことは絶対にしない常川拓也さんに、1月20日(日)に渋谷ユーロライブで開催される「はみ出し者映画」の特集イベント「サム・フリークス Vol.3」についてのコラムを書いていただきました! 常川さんも書かれてますが、9月20日(日)に開催される「サム・フリークス Vol.1」、10月20日(土)に開催される「サム・フリークス Vol.2」と続けて観ることによって作品の面白さが倍増していくイベントですので、そちらも併せてよろしくお願いします!
イギリスの社会主義映画作家ケン・ローチが初めてアメリカで手がけた『ブレッド&ローズ』は、90年代に南カリフォルニアで起こった労働者のストライキの実話に基づいている。題名は1912年のマサチューセッツでの移民労働者による闘争のスローガンに由来しているが、サッチャー政権下のロンドンで炭鉱労働者のストライキをゲイの人々が支援した姿を描いた『パレードへようこそ』でも同名の労働運動歌を謳いあげる場面があったことは記憶に新しい。どちらもパン(生活)のために働き、バラ(尊厳)を持たない人々の物語である。ローチにとって労働とは尊厳だ。一貫して労働者階級の日常と社会の不正を描いてきた彼は、本作ではメキシコからの不法移民の目を通して、米国の実情を語る。法律で保護されない移民労働者がアメリカン・ドリームを達成するためには正当な権利すら奪われてしまう経験に焦点を当てるのだ。そのなかで不当に搾取される人々を見捨てず、ひとつに組織化する労働組合活動家に彼は自身のタフネスな姿勢を重ねているのである。
『バッグ・オブ・ハンマーズ』は、カリフォルニアのバーバンクで他人の葬式で駐車サービスのスタッフを装って、弔問客の車を盗んでは売り捌くことで生計を立てている親友ふたりの日常を描いたブロマンス的なコメディとして進行する。しかし、彼らが貸し出している借家に越してきた失業中の情緒不安定なシングルマザーの家庭で、12歳の息子に対してネグレクトが行われていることが明らかになると、異なる主題が浮かび上がってくるだろう。事態が深刻さを増したとき、無責任に生きてきた彼らは社会のセーフティ・ネットから疎外された少年の世話をすることを選択するのだ。『万引き家族』より約7年先んじて同様のテーマを取り扱っていると言えるが、監督のブライアン・クラーノは家族のダイナミクスを掘り下げ、伝統的なあり方ではない柔軟な型を提示する。その意味で、本作で男性同士のプラトニックな関係を描いた彼が、レベッカ・ホールを再び起用した続く第二作『結婚まで1%』では、子を持つことへのお互いの認識にズレが生じていくゲイのカップルを登場させていることは注目に値する。そのうちのひとりは実際の彼のパートナーなのだ(もう片方はホールのパートナーである)。そう考えれば、クラーノの進歩的なヴィジョンの重みが増すはずだ。
これまで本上映会では抑圧的で硬直した社会のなかで置き去りにされたはみ出し者がいかにして生き抜いていくのかを見据えてきたが、前回、特集した『シュガー』では忘れがたい重要なセリフがあった──「人に手を差し伸べない奴は生きている価値がない」。そのことを踏まえると、今回この2作品を上映することは、それぞれひとつの回答を表明しているかのようで意義深いものがある。
“お金のねえ弱者に食べ物や住むとこ着るものを提供できて初めて社会はセイホー!って言ったらホー!って返ってくる/だからみんなで変えてくー”(Deji「俺たちの未来 ft. Meteor」)
(映画ライター・常川拓也)