<ボーン・フォー・ミー>はよれよれのバラードだ。トム・ウェイツ的孤独な負け犬のつぶやきと、聞くものの心をわしづかみにするメロディ。ソロは基本的に一本の指だけで弾かれ、最初は三つの音しか使われない。だがぼくには最高のソロに聞こえる──パンク的なシロウトくささなどという意味合いにおいてではない(もちろん、一度聞いたら誰にだって弾けるだろうが)(中略)このソロを聞くとぼくは、それが生まれながらのミュージシャンによってプレイされたものだと思わずにいられない──ヴァーチュオーソでなくたっていい。カクテル・ラウンジのピアニスト弾きとしては生計をたてられないようなやつだっていい。音楽の中で考え、感じ、愛し、語ってくれるやつなら、それでいい。
『Suicaine Gratification』『Stereo』『Folker』と続くポール・ウェスターバーグのフォーク3部作の中では最も中途半端な立ち位置に思えていた『Suicaine Gratification』も、メアリー・ルー・ロードが『Backstreet Angels』で「It's A Wonderful Lie」をカヴァー、アイ・ドント・ケアズで「Born For Me」をリメイクした今改めて聴き直してみると、やっぱりこれもポールさんのソングライティングが冴え渡る傑作という感じ。あと、「Born For Me」のオリジナル・ヴァージョンはショーン・コルヴィンとの共演、アイ・ドント・ケアズによるリメイク版はジュリアナ・ハットフィールドとの共演である点に注目。2人ともメアリー・ルー・ロードの盟友なわけで、ここで浮き彫りになってくるメアリー・ルー・ロードの重要性。
っていうか映画『Paper Towns』でリプレイスメンツの「Swingin' Party」が使われていると思ったらカインドネスによるカヴァー・ヴァージョンかよ! ちなみに、この曲はロードもカヴァーしているし、何気にリプレイスメンツの隠れ名曲として人気が高いっすね。いずれにしてもポール・ウェスターバーグに印税が入ってくるのであれば、それは歓迎すべきめでたいことだ。