Mary Lou Lord/Backstreet Angels
★★★★★
MARY LOU LORD IS BAAAACK! 『Baby Blue』から11年ぶりとなる待望のフル・アルバム。前作の時点ですでに彼女は痙攣性発声障害を患っていたので、あまり無理が利かないことは誰もが承知だったとはいえ、まさかここまで時間がかかってしまうとは。何しろ、キックスターターにおける本作へのクラウドファンディング・プロジェクトは2011年から始まっていたのだから。とんでもないマイペースっぷり。
本作で特筆すべきは前作以上にメアリー自身が弾くリズム・ギターを前面に押し出しているという点で、(パンク魂を感じる)安普請なフォークロック・サウンドと相俟って、『Got No Shadow』以前のインディーズ作品の頃の味わいが戻ってきた感がある。たどたどしくても、自分なりのペースで少しずつ前へと進んでいこうとする、彼女の実人生を体現しているかのようなグルーヴ。これこそが本作の基調をなすものだ。メアリーの歌声は歳を重ねてややハスキーになったかなという印象はあるけれど、その凛とした美しさは健在。
『Live City Sounds』では弾き語りで披露されていたグリーン・パジャマズのカヴァー「She's Still Bewitching Me」が本作ではフル・バンド編成で演奏されていたりと、長年聴いてきたファンには嬉しいサプライズもあり。個人的にはポール・ウェスターバーグのカヴァー「It's A Wonderful Lie」と、(ビートルズの同名曲へのオマージュにもなっている)ビート・ハプニングのカヴァー「Cry For A Shadow」に深く感動した。そして、メアリーの16歳になる娘であるアナベルとの共演も。こうやって、音楽は人から人へと受け継がれていくのである。全16曲53分。傑作。