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再結成以降のバンド・メイトであるクレア・ワローとスティーヴン・ダフィーが結婚したことによって、メンバー全員がダフィー姓の疑似ファミリー・バンドと化したライラック・タイム(メルヴィン・ダフィーはたまたまダフィー姓だっただけで、他メンバーとは血縁関係なし)。2009年にニック・ダフィー&ザ・ライラック・タイム名義のインスト・アルバム『Sapphire Stylus』を挟んでいるとはいえ、歌物のアルバムとしては2007年の『Runout Groove』以来8年ぶり。
彼等は2003年の『Keep Going』が地味渋英国フォーク路線を突き詰めた枯れた味わいのアルバムだったものの、以降は本作も含めてそれなりに華のあるギター・ポップ・アルバムが続いており、サウンド・プロダクションもショボくなっていないのが嬉しい。これは2000年代半ばにスティーヴン・ダフィーがロビー・ウィリアムスのソングライティング・パートナーとして活動したことによってポップ・シーンとの接点を失わずに済んだこと、そして財政的な安定を手に入れたことが大きいのだと思われる。本当にロビー・ウィリアムス様様である。
本作は現在のスティーヴン・ダフィーの穏やかな心持ちが反映されたかのような優しさに溢れたポップ・ソング集。『No Sad Songs』というタイトルからは、世の中が悲しみに満ちているのは分かっているけれど、それでも敢えて喜びを表現していこうという彼等の密やかな決意が感じられる。彼等の最高傑作(はどう考えても2001年の『Lilac6』だよね)だとか言うつもりはないが、生き続けていれば何か良いことだってあるかもな、と日々の気持ちを軽くしてくれる傑作だと思う。「She Writes A Symphony」では、かつての名曲「American Eyes」へのオマージュも。全10曲40分。