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前作『Vows』はニーナ・シモン色が濃厚なアルバムだったが、本作はベティ・デイヴィスへの傾倒によってファンク/R&B志向が顕著に表れた作品となった。とはいっても、肉体性ばかりが突出していかずに、緻密なスタジオ・ワークの積み重ねによる実験性も強めているところは彼女が敬愛するプリンスにとても近いといえるだろう。さらに言えば、1曲につき300〜400近いトラックを使っていたためにPro Toolsをクラッシュさせてしまったという逸話は、キンブラがすでにケイト・ブッシュの『The Dreaming』の領域にまで足を踏み入れていることの証左ともいえる。
アルバム全体に漂うドリーミーなムードは黒澤明の『夢』からインスパイアされたものらしいが、本作はキンブラの幼少期からのアイドルであるシルヴァーチェアーのダニエル・ジョーンズとの共作という、彼女が長年に渡って抱き続けてきた「夢」が実現したアルバムでもあるのだった。『ゼルダの伝説』の「大妖精のテーマ」を「世界でもっとも美しい曲」と言ってしまえる感性が反映された「Everlovin' Ya」、エリカ・バドゥの「Gone Baby, Don't Be Long」経由でウイングス「Arrow Through Me」からの影響が感じられる「Nobody But You」など、サウンドメイカーとしてもソングライターとしても前作以上に冴えまくり。文句無しに2014年を代表する傑作だと思います。全12曲60分。