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2010年秋にズーイー・デシャネルに会ってキャロル・キングの職業作家時代のデモ音源集『Brill Building Legends』をプレゼントした時に、「このコンピってすげえいいんすよー。エリー・グリーニッチ版も発売されてたりしますよ」という話を(日本語で)したんだけど、本作ではそのエリー・グリーニッチ版でしかCD化されていない彼女のソロ・ナンバー「Baby」がカヴァーされているのだった。すげえ嬉しいっすね。
映画『くまのプーさん』のサントラや、ズーイー主演のTVシリーズ『New Girl』の主題歌「Hey Girl」などでズーイーのオリジナル曲は断続的に発表されていたとはいえ、シー&ヒムとしての前作『A Very She & Him Christmas』がカヴァー集(クリスマス・アルバム)だっただけに、まさに待望というべき新作である。ズーイーのソングライターとしての実力は『Volume One』『Volume Two』ですでに証明済みなので今回も安心して楽しめる。本作の大きな特徴としては、これまで以上にウォール・オブ・サウンドへの愛が強く押し出されたプロダクションになっている点で*1、たとえばズーイーのビーチ・ボーイズばりのコーラスワークが炸裂するオープニング曲の「I've Got Your Number, Son」なんてモロにカースティ・マッコール。『Volume 3』はカースティ・マッコールの大傑作『Desperate Character』が再発される時代に相応しいアルバムに仕上がっているといえよう。
そしてベン・ギバードとの離婚が影を落としている*2ということなんだろうが、たとえばティーガン&サラの最新作などと同じように、(人生の可能性が急激に狭まっていく)30代前半の若中年者が抱えざるを得ない人生に対する迷い/悩みと、悩みに悩んだ末のひとかけらの前向きさが真摯に綴られている歌詞には本当に強く胸を打たれる。ズーイー・デシャネルは本当にどこまでも誠実なシンガー・ソングライターなのであった。ブロンディの「Sunday Girl」を『軌跡!ザ・ベスト・オブ・ブロンディ』収録のバイリンガル・ヴァージョン(英語&フランス語)でカヴァーしていたりと、相変わらずズーイーの音楽オタクっぷりが随所で発揮されているのもイイネ!人生には変わっていくものと決して変わらないものがあるってことだ。全14曲42分。
*1:フィル・スペクター関連音源のリマスターによる再発が始まったのが2011年から、つまり『Volume Two』以降であることも大いに関係があるだろう。
*2:「I Could've Been Your Girl」がアルバムの基調を成していることからもそれは明らかである。