Fiona Apple/The Idler Wheel...
★★★★
★★★
フィオナ・アップルはレジーナ・スペクターがデビュー当初によく比較対象とされていたアーティストだが、ほぼ同時期に発売された2人の新作を聴き比べてみると、レコーディング・アーティストとしての個性の違いが手に取るように分かって非常に面白かった。2人とも歌声を自在に操るプログレッシヴなピアノ弾き語り系女性シンガー・ソングライターということで音楽性が非常に近いものの、レジーナは自身の高いポテンシャルを平易なポップ・ソングに落とし込もうとし続けているのに対して、フィオナはそのポテンシャルを生々しく刻み込むことによって「孤高」の存在への道をひた走っているという。
レジーナとフィオナの共通点として、2人ともビートルズの名カヴァーを残している(レジーナは「Real Love」、フィオナは「Across The Universe」)というのがあるんだが、2人のこうした個性/キャリアの違いは、要するにレジーナの方がビートリーな成分が濃いということなのだと思う。ビートルズの大きな特徴として、音楽的な実験/革新が、(ごく一部を除いて)どれも最終的には平易なポップ・ソングの一要素として落とし込まれていたという点、決して「孤高」の存在にはならなかった(「リンゴすったー」)という点が挙げられるわけで、レジーナはそこにどこまでも忠実なのだと思う。まあ「『Rubber Soul』が私の人生を変えた」と公言している人だしね。おいら個人の好みからしても、やはりレジーナの作品の人懐っこさの方に惹かれてしまうな、と。というかフィオナ・アップル的なあり方に対しては、どうしても「2つでじゅうぶんですよ!」(『Tidal』と『When The Pawn...』)という気分になってしまうんですよ。今回の新作も凄い内容であることは分かるんだが、こういうのはできれば音盤よりもライヴで体験したい。
ちなみに、レジーナ・スペクター作品でそういうフィオナ・アップル的な「凄み」を感じてみたい人には、彼女のデビュー・アルバムである『11:11』を聴いてみることをお勧めする。
↑まあ色々書いたけど、フィオナ・アップルの「Paper Bag」(『When The Pawn...』収録)は名曲だよね。ポール・トーマス・アンダーソンが監督したPVも素晴らしい。映画『ブライズメイズ』でこの曲がフィーチャーされていたのも記憶に新しいところ。というかフィオナはポール・トーマス・アンダーソンの元カノで、花嫁役のマヤ・ルドルフはポール・トーマス・アンダーソンの嫁なわけで、『ブライズメイズ』ってPTAの影がちらつきまくる作品なんだよな。