Bruce Springsteen/Wrecking Ball
★★★★★
ブルース・スプリングスティーン史上、最も死の影が色濃く漂うアルバム。もちろん『Nebraska』を筆頭に、これまでにも死の影が漂う彼の楽曲/作品は多数あったわけだが、それらはやはり「突然死」といった類のもだったと思う。本作の「死」がこれまでと大きく違うのは、「老いによる死」「寿命による死」として感じられる、もっと言えばブルース・スプリングスティーン本人が死に向かっているということ、それを踏まえた上で何を残していけるのかということを強く意識しているように感じられる点だ。これはやはりスプリングスティーン本人が60代に突入し、この数年の間にダニー・フェデリシやクラレンス・クレモンズといった盟友が次々と死んでいったことも大きいと思う。本作のサウンドがアイリッシュ・トラッドやゴスペル色の濃いものになっていることからもその印象に拍車がかかるのだった(ほとんどポーグスのようなナンバーが幾つもある)。
ちなみに本作のジャケットにはスプリングスティーンの愛機であるテレキャスターがフィーチャーされているのはご覧の通りだが、彼のオリジナル・アルバムのジャケットにテレキャスターが登場するのは出世作の『Born To Run』、Eストリート・バンド解散直後の『Human Touch』に続いて3度目。『Human Touch』のそれは「俺は一人に戻るんだ」という強い意志の表明だっただけに、本作のそれにも深い意味があるように思えてならない。『Born To Run』のジャケットのバックが真っ白だったのとは対照的に、本作のそれは真っ黒だということもあって、おいらからすると、これはほとんど墓標のようにも見えてきてしまう。60代にもなれば、これまでを振り返って自分の人生を総括する段階に来ていること、最新作が遺作になってしまう可能性を意識せざるを得ないのは当然だ。ずっとオリジナル・アルバムに未収録だったライヴでの定番曲「Land Of Hope And Dreams」をようやくオリジナル・アルバムに収めたのは、クラレンスを追悼する為だけではないと思えるのだが。そして、本作はそれに見合うだけの集大成的な傑作になっていると思う。全11曲51分。