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レジーナ・スペクターのアルバムの中で群を抜いて「凄い」のはデビュー作の『11:11』だ。ただし、この「凄さ」は「100メートルをどれだけ速く走れるのか」といった類のアスリート的な凄さであって、だからといってポップ・ミュージックとしての面白さ／楽しさに結びつくわけではないというのが難しいところだ。以降の彼女の歩みはそこにどうやって「楽しさ」を加えていくのか、という試行錯誤の歴史であったはずで、『Songs』収録の「Samson」辺りを契機として口ずさみやすいナンバーが増えていくのだった。最新作『Far』ではレコード会社との契約以前に書かれた「Folding Chair」のようなアホみたいにシンプルかつポップなナンバーを引っ張り出してきた甲斐もあって文句無しに「凄く楽しい」最高傑作が完成することとなった。
本作はそんなレジーナの『Far』ツアー＠ロンドン公演を収録したライヴDVD＆CD。先日の来日公演に足を運んだ人ならばお分かりの通り、彼女の本領はライヴで発揮されると言っても過言ではない。というか、前述の「アスリート的な凄さ」がそのまま楽しさに直結するのがライヴという現場ならではの醍醐味なわけで。監督は「Us」を筆頭に数々のレジーナのPVを手掛けてきたエイドリア・ぺティ。基本的にはコンサートの模様を素直に記録しつつ、レジーナの手元を撮影するカメラを設置したり、まさに「The Wallet」な事件を同曲の前後に挟み込んだりと、気の利いた演出はレジーナの魅力を知り尽くしたエイドリアだからこそ。細かいことだけど歌詞を字幕で表示できるのも嬉しいね。あまり過剰にセンチメンタルになることなくダン・チョーの死について触れた、レジーナ自身が書き下ろしたライナーノーツも素晴らしい。短いセンテンスの積み重ねでグルーヴを生み出していく文章の味わいは彼女の歌詞に通じるものがあり、こちらも何度も繰り返して読みたいところ。
