映画『扉をたたく人』(監督・脚本:トム・マッカーシー)観賞。★★★★★。
トム(トーマス)・マッカーシーは監督デビュー作である前作『The Station Agent』が傑作だっただけに、本作にもかなりの高い期待をもって臨んだんだが、前作すらをも凌駕する大傑作だったので震えまくったぜ。
このトム・マッカーシーという人は役者出身だけあって(というか現在も役者稼業は続けているわけだが。ジョン・ファヴローに近い存在といえば分かってもらえるだろうか)、自身の作品では普段は脇役として活躍している役者を主演に持ってきてうまく使っている。前作では名(小)人俳優であるピーター・ディンクレイジに脚光を浴びせ、本作ではリチャード・ジェンキンスをアカデミー賞主演男優賞候補にまで押し上げてしまったのだから恐れ入る。前作と同様に役者の生理を活かした「気まずい空気」の作り方が絶品で、そこに人懐っこいユーモアが絡んでくるのだから観ていて思わず笑みがこぼれてしまうことが度々(日本版の予告編から想起されるような重苦しい映画ではないので念の為)。なんというか、たとえば『レイチェルの結婚』のようなワークショップ的な野暮/下品な領域に決して陥らないのがこの人の演出の巧さなんだよな。本作ではそこに前作では希薄だった起伏のあるドラマ性まで加わって、さらに深みを増した仕上がりとなっている。
音楽映画としても屈指の出来で、フェラ・クティが大フィーチャーされているのが嬉しすぎる(『Roforofo Fight』大好き! 劇中で登場するアルバムは『Open & Close』の方でしたな)。今年の劇場公開作の中では現時点でダントツの1位(ちなみにDVDスルーの1位は『キット・キトリッジ』)。必見。
あと、エミー・ファン!フォトさんの、「この「扉をたたく人」を見ると「グラン・トリノ」とテーマが似ていて、リチャード・ジェンキンスがノミネートされるならイーストウッドはないかなと思ってしまう」という意見には100%同意致します。