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アルバム・デビュー前からシルヴァー・サンを聴いてきた人の中には、言葉本来の意味で「パワー・ポップ」的だった2ndシングル「Lava」に興奮して、次に出た「Last Day」でジャンル・ミュージックとしてのパワー・ポップに落ち着いてしまった彼等の姿に落胆した人も実は多いはずだ(たしか当時のロッキンオン編集長だった増井修が同様の反応だった)。おいらもそんなリスナーの一人なので、彼等に対しては複雑な思いを抱き続けているんだが、今作でようやくその欲求不満を解消することができそう。
パワー・ポップ・ファンの間で名盤との誉れ高い1stアルバム『Silver Sun』も良い作品であることは認めるけど、その前に出たシングル・コンピレーション『ユー・アー・ヒア』に比べるとソングライティングの充実度もバンドのテンションも落ちているのは明らか。ところが今作では、前作『Disappear Here』の日本での評判に気を良くしたのか知らないが、なぜか「Lava」の頃の異常なテンションが復活しているのであった。
しかも、『Silver Sun』と違ってスロー・ナンバーやバラードを挟むことなく、ひたすらアッパー・チューンが続くという構成が素晴らしい。彼等の特色である分厚いコーラス・ワークも、ここまでくるとサーフ・ポップの範疇を通り越して80年代の産業ロック的ですらある。「What She Wants」なんてリック・スプリングフィールドの「Jessie's Girl」かと思ったぜ。
サン名義でのデビューから10年越しで完成されたシルヴァー・サンの最高傑作。老化によって落ちぶれたハロルド・ロイドみたいなルックスになってしまったジェームズ・ブロードは、ついにトッド・ラングレンのようなポップ・マエストロの領域に足を踏み入れたのだ。ウィーザーの失敗作『Maladroit』は、本来ならばこういうアルバムに仕上がるはずだったのではないだろうか。全13曲37分。