Eytan Mirsky/Everyone's Having Fun Tonight!
★★★★★
映画ファンには『ハピネス』や『アメリカン・スプレンダー』の主題歌の作者としてもお馴染みのアイタン・マースキーは、ニック・ロウであり、ジョナサン・リッチマンであり、エルヴィス・コステロであり、レックレス・エリックであり、デイヴ・エドモンズであり、ヒューイ・ルイスであり、ドン・ディクソンであり、レイ・デイヴィスであり、キム・シャタックであり、さらにはマイケル・シェリーでもある。つまり最高って事!
ジャケットを見れば分かる通り、『Everyone's Having Fun Tonight!』というアルバム・タイトルは後半が省略されていて、実際には『Everyone's having fun tonight but me(今夜、俺以外はみんな楽しんでるぜ)』が正しい。そして、彼は特に悲壮感など見せずに、あくまでも飄々とそんな悲喜劇を歌い倒していく。だが、「そんなもんだよね」と諦観を抱えつつも、完全に諦めているわけではない。そう、ジャケットに描かれた一人ぼっちのミュージシャンは、まだ自分のギターと歌でサクセスする事を夢見ているのだから。
子供の頃、自分は成功する人間だって思ってた
でもそれは間違ってたみたいだ
僕はヒーローなんかじゃなかったのさ
僕はこの人生という戦いで勝つ事は出来ないだろう
でも、戦わずに諦めるなんて、そんなのは嫌だ
(「American Splendor」)
もちろん忘れちゃいけないユーモア・センスだってきちんと備わっている。「A Hundred Times A Day」で「一日に100回 僕は君と恋に落ちてるんだ」と歌っても、「それって単にボケ老人なだけでは?」とリスナーに思わせてしまう風格のなさまで含めて本当にチャーミング。やっぱりこういうキンクス的とも言える姿勢は、おいらの肌にしっくり馴染むんだよなあ。
『アメリカン・スプレンダー』の主題歌だった「American Splendor」、映画内ではマイケル・スタイプとジェーン・アダムスが歌っていた『ハピネス』の「Happiness」もそれぞれ収録した全13曲37分。エレキ・ギターの軽快なコード・ストロークを中心に組み立てられた、音圧に頼らないサウンドも素晴らしい、シンガー・ソングライター・アルバムの傑作。必聴。