映画『ウィ・アー・ザ・ベスト!』(監督:ルーカス・ムーディソン)観賞。★★★★★。
1982年のスウェーデンを舞台に、中学生の女の子3人がパンク・バンドを組む話。つまりルーカス・ムーディソンお得意のポップ・ソング使いまくりな児童映画。果たして、彼の真骨頂が発揮されまくった超フレッシュな大傑作だった。
パンクスが登場する/パンク・ロックを描いた映画は数多くあれど、その大半は「お前、歌謡曲とロックの区別がついてねえだろ」というような代物だ。そんな中で、本作のようにパンクに対するしっかりとした理解があるものは貴重。たとえば、主人公達が最後の最後まで「困った子供達」でしかないところや、音楽を安易に「感動(泣かせ)」の方向に持っていかないところからもそれが伝わってくる。しかも作品自体にパンク的な自由さ、パンク的なエネルギーが溢れているのがさらに素晴らしい。クライマックスの演奏会でカタルシスのある大団円を迎える、というような構築美を敢えてブチ壊す展開!あの人を食ったエンドロール!あれこそがパンクってもんだぜ! で、それはやっぱり『A Hole In My Heart』や『Container』のような実験的な失敗作を経たからこそ作れたのだと思う。見事な集大成。
ルーカス・ムーディソンの映画ではいつものことだが、本作が児童映画として秀でているのは、平板な「正しさ」で物語を回収していかないから。主人公達がギターを買うお金欲しさに物乞いをするシーンで、大人達にきちんと「お金が欲しいんだったら働きなさい」と言わせつつも、そこを強調した作りにしないのが彼の頭の良さだ。それによって作品の世界観に深い奥行きが生まれているのである。
ちなみに、劇中で大フィーチャーされているKSMBはルーカス・ムーディソンにとって非常に思い入れの強いバンド。KSMBと同様に大フィーチャーされているエバ・グロンはスウェーデンで最も成功したパンク・バンドであり、ルーカス・ムーディソンや原作者のココ・ムーディソンのように1970年前後に生まれたスウェーデン人にとってはアバなんかよりも遥かに大きな存在であったとのこと。1982年頃はスウェーデンの音楽シーンにおける激動の時期で、KSMBとエバ・グロンの両バンドが相次いで解散。それはまさに「Punk Is Dead」を象徴するような出来事であったというわけだ。そこを踏まえると、クライマックスでクラーラが放つ「“パンクは死んだ”なんて言われてるけど、あんなのタワ言だからね」という台詞がより切実な意味を持って響いてくる。他者(KSMBやエバ・グロン)に依存するのではなく、自分自身の足で立って世界に立ち向かうということ。それがすなわちロックであり、パンクってことなのだ。